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この作品は<R-18>です。
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天木眞希5−1
「行ってくる」
その日、出かけていくときの高野はいつもと変わりなかった。むろん、知り合いの葬式に行くのだから、沈んだ様子ではあったが、予測できない死ではなかったぶん、割り切ったような目をしていた。
アイロンをあてた真っ白なシャツに、黒いネクタイをした高野をうっとりと見つめながら眞希は、葬式に行こうとしている高野にときめいた自分の不謹慎さを悟られないように、まじめな顔を取り繕っていた。
そんな朝だったからキスもせず、出掛けにちょっとだけ、二の腕に触れただけだった。
なぜ、一緒に行かなかったのだろう。
死んだ男が、自分をレイプさせて高野と別れさせようとした相手だったとしても。
なぜ高野を一人で行かせてしまったのだろう。その日の朝のことを思い出すたびに眞希は後悔した。
浜口栄治は自身が予告したように、苦しんでではなく、効き目の強い痛み止めの力を借りて、朦朧としたまま、眠るように逝ってしまった。それを勇次から伝えられたとき、眞希は何も感じなかった。怒りや悲しみや恨みを感じるほど近しい存在ではなかったし、あまりにも、急なことであったから。
勇次の父親だということ以上に、眞希の気持ちを動かすものはなかった。
眞希と電話を代わった高野が、静かな声で勇次に悔やみの言葉を伝えるのを、じっとそばで聞きながら、高野にとって、婚約者の父親であった栄治はどんな存在だったのか、いつか聞いてみようと思っていた。
高野は葬儀に参列することを望んだが、眞希を連れて行く気はないようだった。何よりやくざの葬式である。自身も、正式に参列するというより、影から見守るつもりのようだった。栄治を弔うというより、勇次の様子が気がかりなのかもしれないと、眞希は思った。眞希自身もそうであったから。
焼き場まではついていかない。自宅での葬儀が終わったら、すぐに帰ってくるからと、どこか不安そうな目をして、腕に触れた眞希にそう言って出かけていった。
けれども、高野は帰っては来なかった。昼を過ぎ、夕方になったころ、眞希は携帯を握り締めていた。勇次に連絡をとろうかどうしようかと、迷っていたのだ。
葬儀の最中ならば、迷惑をかけるだろうし、電源を切ってある可能性もあった。
だが、まさに、電話をかけようとしたそのとき、突然、眞希の手の中で携帯が震えた。
「はい?」
「……」
「勇次?」
「そや、ごめんな、眞希……」
勇次の声は泣き出しそうに擦れていた。そんな勇次の声を聞いたことがなかった。心臓の鼓動が跳ね上がる。勇次の言葉は、胸には入っていかなかった。伝えられた言葉が理解できないまま、何度もその表面をなぞる。
「なに? 何を言って……?」
体の力が抜けていく。
「高野が警察に連れて行かれた。」
「なんで?」
意味がわからずに、眞希は機械的に聞き返していた。
要領を得ない勇次の話を理解しようと何度も聞き返しているうちに、結城に代わった。
そこで初めて事情がわかってきた。
浜口栄治の葬儀の場で、勇次が襲われたのである。ナイフを持った男が、勇次に向かって飛び掛った。結城が気づいたために勇次は無事だったが、男を手引きしたらしい幹部が何人か加わって、乱闘になったのである。
「すまんかった。高野が止めに入ったのにも、気がつかんくて」
銃声が鳴り、気づくと、銃を握り締めた高野の前に、男が一人倒れていたという。
結局、付近の住民の通報で、警察が来たときには、仕掛けた男と、何人かの幹部は姿を消してしまっていた。
高野に撃たれたのも、浜口組の幹部の一人であった。
勇次と結城が、正当防衛を主張したにも関わらず、高野はほとんど口を開かず、警察の質問にも、自分が撃ったと答えただけだったのだという。
「眞希!」
突然、玄関が開いて、勇次が飛び込んできた。
携帯で話しながら、こちらに向かっていたらしい。
「車に乗れや。早く」
事情はあとから説明するからと、眞希は、携帯と外出するとき持って出るバッグ一つで連れ出された。
「うちの幹部も逃げとるし、相楽んとこと繋がってるらしいから、お前も安全とは限らんのや。」
車のなかで勇次が説明するが、眞希にはなかなか理解できない。
どうやら、最近関東に進出してきているやくざが、浜口組の跡目争いに一枚噛んでいるらしい。
「俺みたいなガキは気に入らないってことや。けど、こんなに早く手え出してくるとは思わんかった。」
「高野が、連れて行かれるときに、あんたのことを頼むって言うたんや。万が一のことを考えて、連れに来たんやけど、俺たちはこれから、警察に出頭せなあかんのや。」
「俺も行きます」
「けど……」
「お願いです。」
必死だった。高野の様子を知りたい。もしかしたら、もしも、逮捕されるようなことになったら、当分会えないかもしれない。
「しゃあないな。高野と会えるかどうかはわからへんけど」
ようやく結城が頷いた。
お久しぶりです、「天木眞希」の完結編です。
最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
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