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この作品は<R-18>です。
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#8
8年ぶりだった。
当時と何も変わっていない。
宿舎の管理人さんに挨拶をして、ここへ訪れた理由を説明した。
恋人の瞬が亡くなって、思い出巡りをしていると言うと、管理人さんは嫌な顔もせずに建物の中へ入れてくれた。
泊まっていた部屋、演奏の練習をしたホール、そして食堂を懐かしい思いで見て回った。
そして最後に気になっていた松の木の根元を確認する。
二人が並んで座っていた付近をよく見ると、ある言葉が彫ってあった。
『BEST』『FOREVER』『LOVE』
この言葉が、瞬と智恵美によって彫られたのかどうかは解らないが、一応メモに残すことにした。
二人が木の根元に向かって何かをしているように見えたのは、この言葉を彫っていたのだろうか?
根元以外を確認すると、いろいろな言葉が彫られている。
中には相合傘などもあり、この松の木がここへ来た者達の思い出の木であることが解る。
管理人さんに挨拶を済ませて、帰路に着くことにした。
電車に揺られながら、紗那は3年生になった時の事を思い出していた。
紗那と瞬が3年生になった時には、必然的に瞬が部長になった。
この年の合宿は学校で行われた。
宿泊は教室を二つ使い、机と椅子を全部外に出し、畳を教室の中に敷き詰めた。
一つは男子、一つは女子と部屋を別けていた。
顧問の小澤 伸次郎は宿直室を使っていたが、部長だった瞬もその部屋で寝ることになった。
部長は顧問とのミーティングも多く、智恵美は女子だったので同じ部屋にするわけにもいかなかったのだが、瞬は当然のように同室とされた。
瞬は智恵美の時と同じように、1年下の宮崎 亮介を補佐として連れ歩いていた。
この時の合宿は厳しかった。
この年は吹奏楽部としてかなりの実力があったので、顧問の小澤先生も熱心に指導をしたからだった。
早朝の散歩に始まり、ラジオ体操、柔軟体操、そして午前中には各パートごとでの練習、午後から全体での音合わせをして、夕方には体力をつける為に校庭を10周も走らされた。
毎日、練習が終わるとクタクタになった。
瞬は練習が終わっても、小澤先生と毎晩のようにミーティングをしていたようだ。
瞬も日が経つにつれ、疲れのためか元気が無くなっていった。
みんなが部長の瞬の体調を心配するのだが、瞬は弱音を吐くこともせず、逆にみんなを元気づけるのだった。
厳しい指導の下、最終選考まで残ることが出来たのだが、結果はダメだった。
あともう一歩のところで普門館には届かなかった。
3年生にとっては、この日が実質的な引退になる。
下級生の前で部長が挨拶をする。
そして次の部長が発表され、新部長から3年生に感謝の言葉が送られて引退となる。
音楽室で最後の演奏を済ませると、みんなで涙を流した。
そして3年生だけが先に音楽室をあとにする。
残った下級生達が演奏する中、その演奏を聞きながら学校を出て行くのだ。
瞬と紗那の二人は並んで歩いた。
他の者は二人に気を使って、先に帰ってしまったのだ。
二人で駅に向かって歩きながら話をした。
「もう引退なんだね。 本当にあっという間だった」
「そうね、本当に早かったわね」
「それにしても、なんでみんなは先に帰ったんだろ?」
「それは…、私がみんなにお願いをしたの」
「えっ!? どうして?」
「瞬と二人でこうして歩きたかったから……」
「……」
「ねえ瞬、私はずっと瞬が好きだった。 そして、これからもずっと好きでいたい」
「紗那…、嬉しいよ。 僕も本当は紗那が好きだった」
「本当に?」
「うん、僕から告白したかったんだけど、その勇気が無くて……。 ねえ、ちょっと時間あるかな?」
「時間なら大丈夫よ」
「それじゃ、ちょっとだけ付き合ってね」
瞬が紗那を連れて向かったのは、河原の大きな橋の下だった。
瞬は練習で上手く吹けないと、学校の帰りに一人で練習をしに来た場所だった。
「紗那、二人きりの演奏会をしよう」
サクソホンを取り出しながら、瞬が紗那に言った。
紗那もフルートの準備を始める。
軽く音合わせをすると、二人きりの演奏会が始まった。
今まで練習してきた曲を続けざまに演奏した。
いつのまにか時間が過ぎ、暗くなり始めていた。
「これでラストの曲だよね」
最後の曲は、今日の予選で演奏した曲だった。
終わると、なぜか二人とも泣いていた。
瞬が紗那の肩を抱く。
「お疲れさま、そして今日からは恋人としてヨロシク」
紗那は瞬の方を振り返ると、涙を拭い笑顔になった。
そして瞬に抱きつき、自分から唇を合わせた。
これが二人のファーストキスだった。