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十一 決闘馬ノ首峠
 家を出る修理を丘から見ている者がいた。
 静音に付いてくれば斬ると言われたので、遠目から見張っていたのだ。暗い内なら見落としたかも知れないが、静音との交合の悦楽が修理の出立を遅らせてしまった。
 修理が峠にさしかかる頃、日は山の裾野から顔を出していた。早鳥がぴよぴよと鳴いている。そして疾駆する馬の跫音が背後から追ってきた。

 譜代の家臣の子弟達が乗った十頭の馬が修理を取り囲んだ。馬上の剣士達は、襷を掛け馬乗り袴に槍を小脇に抱えている。
「これは師範代殿!どちらへ行かれる」
 菅笠を上げて修理は彼らを見た。
「その馬、そち達には上等すぎるな。しばらく馬無しの身分になられては如何か」
「笑止!師範代殿は出奔されるお覚悟と見た!御屋形様にお許しは取ったのか!」
「儂の父は他国から来申した。息子の儂はそこに帰るまでのこと。御屋形様にはよろしくお伝え下さい」
「慮外者め!上意!」
 首領の筆頭家老渡部家の次男、裕之助は槍を両手で掲げ馬の腹を蹴った!修理の横を擦り抜けざま、上から胸を突こうと繰り出した!
 修理は身体をくるりと回転しただけで槍を躱し、右手で槍の柄を握って引いた。
「うわっ!」
 裕之助は馬の上で身体を捻られ落馬する。身体を起こそうとしたところを修理に顎を蹴られて無様に悶絶した。
「これはいつぞや静音を庇う儂の背を蹴ってくれたお礼じゃ!」
「おのれ!」
 身体の大きい二番家老の子、次郎三郎が修理を踏みつぶそうと馬の手綱を引いた。
 武者と一体となった駿馬は、戦場では相手に体当たりし踏みつぶす戦車となる!
 馬が悲痛な声でいなないた!
「ぎゃーっ!」
 次郎三郎は生臭い馬の血を存分に被って落馬した。
 修理が、裕之助から奪った槍で、立ち上がった馬の喉笛から頭まで突き抜いたのだ!
 仰向けで気絶した次郎三郎の大刀を、修理は抜いた。
「次郎三郎殿、やはり御身には剣は向かんようじゃ」
 そして疾風のような速さで後ろに居た騎馬武者に走り寄る。
「う、うわっ!」
 馬上の若者は槍を捨て慌てて刀を抜こうとした。鯉口を切り損ね、下に向けた刀が自らの重みで抜けたところを握ってしまった。自分の左手の平を刃で引いた。
「あわ!あわ・・・!」
 自分の手の血を見て身が竦む。
「一の太刀の極意!見よ!」
 右肩上の八艘の構えから剣を切り下げる。その時既に右足は大きく踏み込まれ、背を反らせたまま素振りをするように滑らかに剣先が弧を描いた。
 驚愕する皆の目には、時間の流れが緩やかになったようだった。馬の首に筋が入り、それに沿って首が斜め横にずり下がって行くのが見えた!噴水のような血飛沫を上げて武者と共に首のない馬が倒れた。
 残った七人は恐怖に駆られ、一目散に来た方角へ馬を駆って逃げていった。
「ははは、仲間を見捨てるとは御身等の武士道も地に落ちたものじゃ」
 修理は血飛沫に汚れた菅笠を捨てると、残った馬に跨り、都の方へ駆けて行った。

ここまで読んで頂き有り難う御座います。「衆道剣風録」シリーズとしていきますが、その初話はここで終わります。
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