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時代小説用語:
「組太刀」=古武道の稽古のとき受け・攻め(BL用語ではありません)を決めて、斬り合いの型を稽古すること。
「鯉口を切る」=鞘に収まった刀を左手親指で少し抜くこと。
「譜代」=その主君に長年仕えている家臣。宿将とも言う。
「衆道」=サンスクリット語の「サンガ」即ち「僧」の道。女色を絶った寺社で行われた男色。それが武家にも伝わり、「武家の華」とも言われた。幼い頃、学問の為に武家から寺社に預けられた少年達が対象であったろう。
「兄弟」=衆道で兄弟とは「艶なる兄弟」の意味。契りを結んだ恋人のこと。やくざの「兄弟」も遠くは衆道からであろう。
一 静音の涙
 修理は自分と対峙している若者をぼんやりと見ていた。
 目尻が釣り上がった流線型の瞳には、その怒りの炎が見えるようだ。まだ下ろしていない長い前髪を額と頬に垂らし、汗がそれを伝って道場の磨き抜かれた床に落ちた。
 白く薄い麻の剣道着と股立ちを取った黒袴。すべやかなすねと形のよい左足先がこちらに向いている。左肩を半身に前に出し、右肩上に木刀が八艘に掲げられている。
 道場内の門弟どもは打太刀を努める師範代と、稽古としては常軌を逸した気迫を発している使太刀の若者を見入っている。
 修理は静音しずねがなぜ、かように怒っているのか分かっていた。
 静音は昨日までは修理を兄と慕っていた。

 足軽五人組頭の低い身分の家柄から師範代となった修理を、譜代の家臣達の師弟が蔑むのを憤り、決闘騒ぎまで起こしたほどなのに。
 静音自身は主家の宿将、古性儀太夫義明の三男であった。

 素直で明るく、そしておなごのような面立ちの美しい静音は、誰でも衆道の相手にしたくなる。
 静音が十歳で道場に入門したてのとき、城下で評判の美童が入ると色気づき始めた男気がある若者は色めき立った。心配した父の儀太夫は、海道新右衛門に、静音の送り迎えをその息子にさせてくれないかと頼んだ。新右衛門の息子が修理であり、彼は嘗て儀太夫の配下であったのだ。
 この時代、衆道の対象の少年を年上の若者達は取り合った。
 念者になるのに、相手が家老の息子でも長男でなければ身分の差はさほど関係なかったのだ。念者、念友の関係は双方が長じて妻帯しても続き、武家の華と云われる。
 主家内でも実力者の父を持つ静音を、念友にしたいと実際に行動に出られるのは専ら譜代家臣の子弟だった。
 反対に下級の者が手を出そうとすると、それを排斥した。
 修理も静音と同道しているときに、十人ほどに取り巻かれた。そのころはまだ修理も師範代にはなっていなかった。殴られても必死に耐え、静音を守った。家老家の家人が来るまで修理は小さな静音をかき抱き、背を打たせ蹴らせて守ったのだ。
 そのときから静音は修理を『兄』と慕うようになった。
 修理に負担をかけまいと静音は剣に打ち込み、今は十六の若年と雖も道場の数人の高弟に次ぐ腕を持つまでになった。

 兄と呼ばれ終生の友として絆を結ぼうと修理は考えた。だが、いつからかその無邪気な顔が心なしか妖しく映る様になった。自分にだけ見せる無防備な可愛らしい口を吸いたいと思う様になった。
 隠すのだ。静音は歴とした男の子だ。

 だが、見抜かれた。
 修理は宿直とのいのとき、着替え籠に静音が残した下帯を見つけた。汗で濡れたので代えて帰ったのだ。師匠は目の病の湯治に行って不在だった。
 薄暗い着替え部屋の片隅で修理は静音の匂いを嗅ぎ、そのかすかに残っていた尊い静音の体内の香液を舐めた。己の怒張した逸物を夢中で擦りあげ、静音の名を呻きながら汚れを吐いた。
 そのとき、忘れ物を思い出して取りに来た、静音の足音にも気が付かなかった。どくどくと吐き続ける白濁を止めることも出来ず修理は静音を見た。
 静音は自分の下帯を認めて、恥ずかしさと怒りに顔を紅潮させ怒鳴った。
「・・・お前様は!やはり俺のことを女のように思っていたのか!」
「・・・静音。赦してくれ・・・儂はお前を愛おしいと思っていた・・・しかしお前を傷つけるつもりは無かった!」
 静音は激しく言った。軽蔑のまなざしとともに。
「同じじゃ!・・・お前も他の奴と!俺を女のように抱いてそれを俺の中に出したかったのじゃろう!」
「違う・・・」
 静音は足音高く道場を走り出た。涙が落ちる前に、誰も居ない場所に行くために。



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