警告
この作品は<R-18>です。
18歳未満の方は
移動してください。
3・道連れ
――はるやになんてことしちゃったんだろう。どう思われたかしら……シャナンは……シャナンに会いたい。
その夜、加奈はベッドに入ってからもなかなか寝付けず、時計は午前一時を過ぎていた。
どちらかと言うと、はるやのことを考えるより、シャナンの家にいけなかったことへの後悔で、頭の中は占められていた。
『会いたい、会いたい……』
シャナンの声が聞こえて来たような気がした。
「まさか、ね」
加奈は確認するように声に出してそう言ってみた。
『待っているから……』
やはりシャナンの声がする。
加奈はいてもたってもいられなくなり、コートを羽織ると、とうとう窓からこっそり部屋を抜け出し、シャナンの家へ向かった。道順もはっきりとは覚えていなかったが、何かに導かれるように歩いた。
音もない静かな夜で、雪を踏むさくさくという加奈の足音だけがこだましていた。
見覚えのある高い塀の前までどうにかたどり着いた。
古びた木製の門扉を押すと鍵はかかっておらず、きしむ音と共にゆっくりと開いた。玄関の外灯は消えており、月明かりを頼りに木の生い茂る庭を進んだ。耳がキンと鳴りそうなほど静かで、家には人気がないように感じられた。
こんな真夜中に訪ねても非常識だと、玄関ポーチの前まで来て、加奈はようやく気がついた。
「私、馬鹿みたい」
熱が一気に冷めたような感じだ。
加奈はため息をつき、冷たくなった両手を口に当てて、暖かい息を手に吹きかけながら、引き返そうとした。
「加奈、来てくれたのね」
振り返ると、一階の窓の一つが開き、そこからガウンを羽織ったシャナンが顔を出していた。
「シャナン、ごめんなさい。こんな遅い時間に、でもとても会いたくて……」
「嬉しい、今夜は泊まりなさいな。寒いでしょう、お入りなさい」
「ありがとう」
玄関ドアを開けて中に入ると、廊下には蝋燭の明かりが灯っており、シャナンが出迎えてくれた。長く緩やかなウエーブの黒髪を無造作に下ろし、足首まであるガウンの下にネグリジェを着て、まるで童話から抜け出したお姫様のように美しいシャナンに、加奈は目を奪われ、うっとりと見とれた。
「さあ、暖炉の傍へどうぞ」
「ありがとう」
加奈は居間の暖炉の側にある一人掛けのソファに案内された。
壁についているランプの明かりがいくつか灯り、室内はほのかに明るかった。この前来た時とは違って揺らめく明かりが幻想的な感じだ。
――家族はいないのだろうか。
「気にしないで、仕事で海外に行っていて家族はいないの」
「そ、そうなの、寂しいわね」
「今は加奈がいるから寂しくはないわ」
そう言いながら、シャナンは加奈が脱いだコートを受け取り、加奈の首筋に近い髪をさらりと撫ぜた。
頭の中を覗き見されているのではと思うくらい、瞬時に答えたシャナンが不気味だったが、加奈はシャナンに触れられただけで心地よい胸の高鳴りと、軽い眩暈がして、そんなことはどうでもよくなってしまった。
「私のでよければ着替えてね」
そう言って加奈に絹製の白いネグリジェを渡した。受け取る時、あの甘い匂いがした。
「シャナンの香りがする」
「そう? 着せてあげる、きっと加奈に似合うわ」
加奈の前にかがむと、ブラウスのボタンをはずし始めた。
「自分でできるからいい、恥ずかしい」
シャナンの行為に加奈は抗うが、強くは拒みきれない。
シャナンは上からするするとボタンをはずしていき、ブラウスを肩から下ろし、あらわになった加奈の首筋から胸をうっとりと眺めて肩に寄りかかった。
「綺麗な若い肌、加奈の良い香りがする」
ひんやりと冷たいシャナンの唇が加奈の肩に押し付けられた。
「あっ」
加奈は思わず声を漏らした。
ふつふつと熱いものが胸の奥から沸き起こってくる。くらくらとめまいがする。もう、シャナンさえいれば後はどうでもいいとさえ思う。
自分が押さえられない。自分のことがわからなくなる。
加奈は自分がとんでもないことをしてしまいそうで恐ろしかった。
そしてとうとう、口走ってしまったのだ。
「私、変なのかしら。はるやよりシャナンのことが気になって……好きみたいなの」
「何が変なの? 私も加奈が好きよ、とても」
耳元でそう囁き、シャナンは加奈の首筋から胸へ口付けをした。
「だ、だって、シャナンは女だもの」
加奈は声が漏れそうになるのを必死でこらえながらいった。
「そう? そう見えるだけ。私には人間が言うところの女も男もない、私がいるだけ」
「どういう意味……わからない……あ……」
戸惑いながらも、素肌に繰り返されるシャナンの口付けに、加奈の息遣いは荒くなり、話しをすることができなくなっていた。
「いいの、何も考えないで。私と一緒にこれからずっと旅をしましょう」
「旅? ……あぁ……」
「そう、長い永遠の旅。一人は寂しい、あなたをずっと探していたの、愛しい人」
「ずっと?」
「何度も出会い、すれ違ってしまった。今度はもう離さない」
加奈の顔に触れそうなほどシャナンの顔が近づき、青く大きな瞳で加奈を見つめた。シャナンのきめの細かく青白い肌が美しく、赤い唇を一層引き立たせていた。その唇からちらりと、鋭く尖った牙が見えたように思えた。
「加奈」
二人はどちらからとはなく延々と唇を重ね合わせた。
体が痺れる。放心状態になりながら、ずっと前からこうしたかったのかもしれないと、加奈は感じた。
シャナンは口付けをやめてうなじをそっと撫ぜた後、唇を押しあてた。
「シャナン……」
加奈の首筋に数滴の赤い筋が流れ、意識が遠のいた。