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 R15程度です。あまり過激な描写はありません。耽美的なガールズラブ。
 
 1話から5話までの粗筋(女子高にて)
 緩やかなウェーブのかかった長い黒髪、沈んだ青い瞳の同級生シャナンに、三神加奈みかみかなは出会った。
 「シャナンがほしい」
 異常な渇きが女子高生、三神加奈みかみかなを苦しめる。
 加奈の彼氏、山崎はるやはシャナンの異常さに気づき・・。
1・終わりのない命
  真っ白い綿雪の上に、深紅の雫がぽたりと落ちた。
少女の細く長い指先から、それは流れ落ちていた。その少女の指には傷がない。それは他人の血だ。
暮れかけた公園、人通りはなく音も雪に吸い込まれ、辺りは静寂を保っていた。
「ごめんなさい、でもとても素敵だったわ。甘美な味……」
より一層赤みを増した唇へ、自分の指先を近づけると、付着している赤い液体をいとおしそうに舐め、傍らに倒れている自分と同じ制服の少女を見下ろして微笑みかけた。そして、意識のないその少女を、細い片腕で軽々と抱き起こした。
「加奈さん、しっかりして、大丈夫?」
 シャナンがアルトの声で呪文のように耳元でそう囁くと、腕の中の少女はゆっくりと目を開いた。
「うん……森羅しんらさん? 隣のクラスの森羅シャナンさん? 私……どうしたの」
「貧血をおこして急に倒れたの、びっくりしたわ」
 シャナンは長い癖毛の黒髪を揺らし、その深みのある青い瞳で加奈の瞳をじっと見つめながら微笑んだ。
「そうなの、ありがとう森羅さん」
 シャナンが声をかけるたび、加奈は動揺して目を伏せた。
 加奈にはシャナンの微笑みが天使のように神々しく感じたのだが、同時に、悩ましくエロティックで肉感のある唇から溢れるシャナンの声は、胸の奥深くから込み上げてくる、例えようのない感情を沸き起こし、加奈はその感情に支配されていた。
 それは、好きな人と一緒にいるときの昂揚感のような、しかしもっと絶対的な服従の感覚、畏怖の念に近かった。
「家まで送ってあげようか?」
「いいえ、もう大丈夫。本当にありがとう、それじゃあまた」
 そう言って加奈はシャナンと離れがたい感情をなんとか振り切り、足早に家路についた。
ただ、いつもよりずっと青白い顔をして。反対にシャナンの顔は紅潮し、生気がみなぎっていた。
シャナンは加奈の後姿が見えなくなるまで、じっとその場にたたずんでいた。
「あなたを想って、私は生き続ける……」
シャナンは絶望に満ちた苦渋の表情で、ぽつりと呟いた。

  渇き
 ――森羅シャナン、シンラ・シャナン、シャナン!
 三神加奈みかみかなは授業中もシャナンのことで頭が一杯だった。あの夕暮れ以来、何も手につかなくなっていた。自分でもおかしいと思うくらいシャナンのことが頭から離れないのだ。
 ――いとおしい、いいえ、違う。シャナンを欲している!
 感情はブレーキがかからない、どうしようもないものだった。
 ――何故、何が起こったの? 森羅さんとは廊下ですれ違ったことがあるだけなのに。あの日、あの沈んだ青い瞳で見つめられてから狂ってしまった。
「加奈、オニヤマが呼んでるって」
 隣の席の悪友、岸村志麻きしむらしまが脇腹をつついた。
「え?」
 そう言われ、はっと我に帰ったが、遅かった。オニヤマ……鬼の山本先生が険しい目つきで加奈を見ていた。
「三神さん、先ほどから呼んでいるのが聞こえなかったのですか。最近おかしいですよ、彼氏のことでも考えていたのかしら? 廊下で少し頭を冷やしなさい」
 教室中でクスクスと声を潜めて笑う声が洩れ聞こえてきた。
 ――セクハラオニヤマ! 自分に男がいないからってそんな嫌味を言うな!
 三神加奈は教室をのろのろと出て、ドア越しにオニヤマを睨みつけ、心の中でそう悪態を吐いた。
 ――ああ、彼氏のことで悩むのならどんなによかったか。
 一ヵ月ほど前に、加奈は他校の男子から告白されて、付き合い始めていた。
 女子高にいる間は彼氏なんてできないと思っていた加奈は、二つ返事でOKしたのだ。
 放課後になるとコンビニの前で待ち合わせ、一緒にぶらぶらと街を歩いたり、彼がサッカーの練習の時は、メールでたわいもないその日の出来事をやり取りしたりした。友達に冷やかされながらも、それはとても充実した毎日だった。
 それがあの日を境にすべてが変わってしまったのだ。何をしてもつまらない、あんなに楽しかったのに。彼氏といる時でさえ、このなんともいえない渇きは癒されなかった。
 廊下にたたずみ、ふと窓から校庭に目をやると薄暗い空から雪が舞っていた。
 ――あの日もこんな雪だったかな。
 そう思った瞬間、フッと目の前が真っ白になり、体がゆっくりと倒れるのがわかった。
 教室から、誰かが駆け寄り三神さん、加奈、と呼ぶ声がしたが、それには応えることはできなかった。

  沈んだ青い瞳
 目覚めると、汚れてくすんだ灰色になっている、無機質な天井があった。
 ――保健室か……。
 加奈は再び目を閉じると、ベッドに仰向けのまま、暫くじっとしていた。
 ――静か……先生いないのかな……。
 廊下から生徒の声がざわざわと聞こえてきた。
 ――もう下校時間か、だいぶ寝ていたんだ。帰らなきゃ。
 加奈は目をあけ、ベッドから降りてみたが、すぐに頭がくらくらしてしまい、頭を抑えてその場にかがみ込んだ。
「ひどい貧血ね、家まで送ってあげるわ」
 加奈は突然声をかけられ、驚いて顔をあげた。自分の直ぐ横に見慣れない女生徒が心配そうな顔をして立っていた。
 地味な黒縁の眼鏡をかけ、癖毛がかった長い黒髪は緩く後ろに束ねられている。
 加奈は何故だか彼女から目が離せない。肌がとても白く、彫りの深い顔立ちにすらりとした体型。誰かがハーフだと言っていた。特に加奈が釘づけになったのは、眼鏡で隠されている、沈んだ青い瞳。
 ――森羅シャナン?
 声に出して名前を呼ぼうとしたが、思うように口が動かない。この前会ったときよりかなり地味で、雰囲気が違うけれど、でも確かに、シャナンだ。
「三神さん、さあ帰りましょう」
 彼女がそう言って加奈の手をとると、さっきまでの眩暈は嘘のように、体が軽く感じられた。
 シャナンの華奢でひんやりとした手に触れられた手のひらは、そこに心臓があるかのように脈打ち、そこから全身に血が駆け巡っていくように感じた。
 なぜクラスが違う彼女が現れたのか、どうして家まで送ってくれるのか、冷静であれば変に感じたことも、今の加奈にはどうでもいいことだった。
 ただここにシャナンがいる、それだけでよかった。
 外はもう日が沈み、降ったばかりの雪が真っ白なビロ―ドの絨毯のように校庭を覆っていた。
 雪道を歩き、冷たい風に吹かれても、加奈は寒さをまったく感じなかった。
 加奈はそのことに気づいていなかった。


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