警告
この作品は<R-18>です。
18歳未満の方は
移動してください。
一番最後の章のみがBL度高です。それまでは古武道と剣による戦いの蘊蓄が満載で、剣術好きの読者には良いでしょう。最初は女性向きとして発表しますが、男性もどうぞお読み下さい。衆道の恋人達の心の機微を描く本格時代小説としても読めます。
一 契りの剣
静音は捨吉を手伝いながら前野家の家事を覚えていった。
はじめはすぐ飽きるだろうと考えていた捨吉も、毎朝早くから起き出して来る静音に身を入れて教え出す。元来物覚えが良い静音は朝餉と夕食をうまく作れるようになった(この頃は主な食事は二食)。
そして静音も修理と天寧寺の善吉和尚に剣の教えを受けるようになった。だが禅僧でもある善吉は一日の半分を費やして彼らに禅の修養をさせた。
夕方涼しくなってきた頃、本堂の縁側で茶と菓子をついばみながら善吉は聞いた。
「静音。あの時、五部浄の一味の右翼の者を斬り伏せし刀使いはどこで身に付けたのじゃ?」
「和尚様。あれは・・・修理のお父様が教えてくれた鹿嶋神道流の『逆抜きの太刀』です。お師匠様の仇を討ったとき咄嗟に使いました。相手が八艘の構えから斬りおろして来るときに・・・しかも私を未熟者と見る敵に使えると感じたのです」
善吉は感嘆する。
(この歳で・・・よくぞその境地を・・・この者、剣の天才やも知れぬ)
しかし幼さを残して笑う顔を見て、こうも思う。
(まだ心身はおなごと男の子の狭間にある。ただ、恐いもの知らずなだけかも知れぬな)
修理が口を挟む。
「静音!使えるなどと・・・しかも咄嗟の判断で・・・何という危ないことをするんじゃ!」
静音がきっと修理を見て言う。
「その時、お前はこの京で身分の高い方とお楽しみで、俺のそばにはそんなことを言ってくれる者は誰もおらんかった!」
もちろん、静音の父や兄はそれを知っていれば止めたであろう。静音の嫉妬がぎんぎんと修理への切り返しに押し詰められている。
善吉はこの恋人たちのやりとりが面白かった。もっと煽ってやりたかったが、修理がいつもやりこめられ渋を舐めたような顔をしているので、
「ふむ、心を無にしたあの打ち込み、もう教えることはないな」
自分にはお前はまだまだと言われていたので、修理はびっくりした。静音は半目をあけて小生意気な顔で、ふふんと修理に微笑んだ。
確かにこの天寧寺での意趣試合の時、静音や老人二人のことが気になり一雲に技らしい技をかけられなかった。死地を何度かくぐって来たためか、危機一髪で五部浄の陣場織を掴みその刀を握るという機転で勝ちを取ったが、あの時、剣技では完全に遅れを取っていた。死んでも当然であった。反対に静音は見事に敵を真っ二つにした。
故郷で陰流道場の師範を努めて静音を指導する立場であったが、ここにきて修理の自信がぐらぐらと揺れ出した。
和尚は二人に組立ちを行うよう命じた。
「静音が打太刀をしろ。陰流の組太刀で良い」
二人はびっくりした。通常、格の上のものが打太刀となり、使太刀に攻めさせ勝たせる稽古をする。確かに二人しかいないので代わる代わる攻めと受けを稽古するものだが、最初から静音に打太刀をさせるとは、修理の自尊心が傷ついた。
だが、善吉は今の師。修理は意を決して木刀を構えた。
圧倒的な攻めで、静音の構えを打ち崩し格を示してやる。
「むん!」
自然と肩に力が入る。
静音は自然体からゆっくりと木刀を上げ、中段順の斜の構えを取る。即ち、右肩、右足を前に出し、刀の刃が左下を向く様な構えである。
「次第は気にするな。使太刀(修理)は思うように砕き、攻めよ。静音は攻めが見えれば防いで押さえよ」
組太刀は第一、第二というように勢法の順序が決められている。ところが善吉が命じたのは順序は無く、思うように形を変え(砕き)、打ち込んで良いということだ。
陰流を含めて当時の古武道は現在のような面小手はまだ発明されておらず、木刀か竹を皮で巻いた撓で寸止めか軽く相手を打つことになる。勢法が決まっているから打太刀は相手の撓をしのぐ事が出来る。しかし、臨機応変に斬り込まれるとなると、真剣試合に近くなり、危険な動作も生まれる事になる。双方興奮してくると、ややもすると怪我では済まされない事態となり兼ねない。
以前、静音が修理の秘密を知って怒り、故郷の道場で勝負を挑んだ。
幼い頃、道場の不良の兄弟子達にその美しさを狙われ、拉致されそうになった。その時、静音を抱き包んで守ったのが修理であった。それ以来、ずっと兄と慕ってきたのに、修理が自分の汚れた下帯の匂いを嗅ぎ自慰するところを見てしまった。
自分も不良達と同じように性の対象として修理に見られていたということが許せなかった。
組太刀で稽古を付けて貰うという立場を利用して、修理を打ち伏せようとした。怒りに燃えた静音の木刀を防ぐ為に、修理は全力を尽くさねばならなかった。そして静音の腕を打ってしまった。
修理が静音を傷つけた最初の試合だった。
修理はそれを思いだした。そして静音を傷つけないように打ち込もうとした。圧倒的な攻めで勝ちを見せれば良い。だが、寸分の差で静音にきれいに防がれる。
修理は焦って踏み込むあまり、またお堂の羽目板を踏み割ってしまった。
静音の腕が修理を上回ったのではない。反対に、静音は修理に打たれても良いと覚悟しただけだった。
静音の全身から力が抜け、身体を臨機応変に動かす事が出来た。だからこそ何処も打てる筈は無かったのだ。修理は焦りのあまり無理に静音の構えにすきを見出して打つが、静音に見透かされて防がれる。
剛と柔。硬と軟。主と従。
修理は静音を守るために打つ。
静音は修理にきれいに勝ちを取らせようと決まらない技は防いでしまう。
そろそろ寿命の枯渇を感じていた老齢の善吉は、それを見ながらほくそ笑む。
この二人面白い。
契りの剣。
このような剣もある。
この世の名残に良いものを見た。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。