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三十九話
「光、ありがとう。光となら…俺は新しい一歩が踏み出せる気がする。一緒に歩いてくれる…?」

「うん。もちろん」

抱き合う腕を解いて見詰め合う。新之助の顔に、いつもの自信と余裕が戻ってきたような気がした。

それでも赤くなった瞳が愛おしくて、光は微笑んだ。

「なに笑ってんの。俺の顔、おかしなことになってる?」
「いや、目が真っ赤だなぁーと思って」

「…しょうがないだろー!光はホントに…って、あ!」


恥ずかしそうに目元を拭った新之助は、何かを思い出したようだった。

「そういえば、光も俺に何か言いたいことがあったとか言ってなかったっけ?」


胸の痞えが取れたように、清々しい顔になっている彼の問いかけに、光の心臓がギクリと居心地の悪い音を立てた。


「あー…っと、それは…えっと、実は……」


ポツリと一言、あの日の出来事を告げると、新之助の目がバッと見開かれた。







「えぇーーーっ?!!!」



















 オレンジフラワー、ジャスミン、ベルガモット。


フルーティーだけど、どこか官能的な琥珀色の香り。その香りの泡に包まれながら、たっぷりと張られた温めのお湯に浸かる光は、もうのぼせそうだった。


コンコン。


「光。いつまで入ってるの?そろそろ出たほうがいいよ。のぼせちゃうんじゃない?」

「うん、あともう少しだけ…」


新之助と初めての夜を過ごしたデザイナーズホテルのスイートルームに、二人は来ていた。


賢吾と、一度だけ関係を持ってしまったこと。


車内でそれを話した。彼は驚いていたけれど、どこか納得した様子だった。


「光…俺、前に言ったよね?光は自分の魅力が分かってないって。まぁ、そっかー、賢吾君は光の事、ずっと好きだったんだね。でも…俺はもう光を手放す気は無いから彼には諦めてもらうしかないな」

「だっ、大丈夫だよ、俺も…少し流されてそう、なった…けど、やっぱり新之助の事が好きなんだって確信したのも事実だし…その…」


「ふぅん。流されて、ヤラせたの?どこまでさせたの?最後までヤラれちゃった…?」


「そ、それは…」

「そっか、最後までしたんだね…まぁ、いいさ。俺だって光に心配掛けたりして、すごく悪いことしたし…。おあいこ、かな」


ニコっと笑う新之助だったが、瞳の中に燃えるような何かが揺らめいている。



「あの…しんっ…」
「これから光のこと抱いてもいい?もちろん、じっくり愛し合える場所で」

ふわりと耳元で囁かれた。途端に甘い官能の種が埋め込まれたように、じわりと体が反応し始める。

「あっ…」
「決定、だね」

顔が熱い。体中が、新之助を求めている気がした。










「やっと出てきた…ほら、ミネラルウォーター飲んだほうがいいよ」

流れるようなラインが美しい上等のグラスに注がれた水に口をつける。スルスルと喉を伝っていくヒンヤリとした感覚が、火照った体に心地良い。


「どうして、今日は一緒に入らなかったの…?」

「一緒に入ったら、お風呂で一気に犯してしまいそうだから」

クスリと微笑む新之助の口から飛び出した言葉に、ドキっとする。そうやって奪われたって構わない。


早く、欲しいと体だけじゃない。心が叫んでいた。






 夜景が美しい都会のスイートルームの、広々としたベッドに横たわる光は、ガウンを纏っていた。体中からあの香りがする。しっかりとしたスプリングが寝心地よいのベッドなのに、高鳴る胸の音が煩くてどこか浮き足立っている。



「光…こっちに来てくれる?」



バスルームから、新之助の声が聞こえた。抑えられない鼓動の速さを自覚しながら、光は向かう。


「どうしたの?」

「お仕置きしようかと思って」

「え?」


新之助の長めの髪からはまだ水が滴っている。ガウンの隙間から覗く肌にも、水滴が付いていた。こちらを見据える彼は、少し悪戯っぽく微笑んだ。


「ほら、ここにおいで…」
「う、ん」

 バスルームから出るとパウダールームがあった。広々としたそこには、新之助が気に入ったと言って自宅でも使っている、琥珀色をしたシャワージェルと同じブランドのアメニティが、大きな鏡の前に綺麗に並べられていた。


光の手を引くと、新之助は鏡の前に立った。そしてドレッサーの前に並べられたアメニティを避けるように端に寄せて、光の右足をその上に乗せた。



「光…もう少し、足を開きながら乗せてくれる?それじゃ見えないよ」

「は、恥ずかしいよ…こんな明るい場所で…」

「明るいから、いいんだろ?」

本来、肌を整えたり、髪の毛を乾かしたりする場所だ。白熱灯の明かりが肌蹴たガウンの隙間から覗く光の、白い脚を煌々と照らしている。


「ほら…こうするとよく見える」

「あっ…!」

遠慮がちに乗せられた脚を、新之助が後ろから大きく開かせた。ガウン以外何も身に纏っていない光の中心が、すでに僅かな昂ぶりを見せていた。



「あれ?おかしいな。何もしてないんだけど…どうしてこんな風になってるのかな」

「んぅっ…あぁ…」

後ろから支えるように、抱き締めながら耳元で卑猥な言葉を囁かれると、光の体は本人の意思よりも早く、反応していた。



「すごい…もう勃ってきてる…こんなイヤラシい姿を…賢吾君にも見せたの?妬けちゃうな」


スルリと胸元の隙間から、新之助の手が侵入してきた。胸の突起を痛いほどギュッと摘まれる。

「あぁっ!痛…っ」
「本当に、痛いだけ?」

爪を立てるように刺激されると、痛いのに、体の奥が痺れるように、疼いた。



「ん…っ…はぁ…あっ!!」

「痛いだけじゃないでしょ…光…これはどういう事?」

鏡を指差されて瞼を開けた。


開かされた脚の間には、快感を貪る象徴が、待ちきれないように雫を垂らしていた。


「み、見ないで…っ」

視線を逸らそうとした光の顎を、新之助の長い指がそっと引き戻す。


「ダメ。ほら、ちゃんと見て…俺の指で、こんな風に感じてる光を。あぁ、とっても綺麗だよ」


新之助がそっと雫を掠め取ると、糸を引くようにタラリと指に絡みつく。

「んっ…」
「ちょと触っただけだろ?こんなに震えて…もう欲しいの?」


乗せていた右足を、床に戻すと新之助は光のガウンの裾をたくし上げた。

「ほら…光の好きな…ここに」

太股からツーッと上へなぞるように指が上がってくる。小さな窄まりには触れずに柔らかな双丘を撫で上げた。

「っ…あぁ…ん…だ、め…」

ガクガクと膝に力が入らなくなってきた光は、抱きかかえる新之助に支えられながら、何とか立っていた。


「ちゃんと立てないのかな?しょうがない…ここにほら、こうして掴まってごらん」

 

先程脚を乗せていたドレッサーの上に、うつ伏せに上半身だけを乗せられた。
目の前にある鏡には、上気した自分の顔が映っている。頬を染めて快感を待ちわびるその姿に、光は恥ずかしくて目を閉じた。

「そうそう、それなら立ってられるでしょ?それに、自分の姿もよく見えるだろうし。さぁ、目を開けて…光」


晒された下肢を、熱い掌が弄っている。その時、突然パン!と渇いた音が響いた。

「あぁっ!」

驚きに、思わず上擦った声が漏れる。


「ねぇ、スパンキングって知ってる?音だけ上手に立てて、あんまり痛くないようにするんだけど…光ってこういうの好きでしょ?」

「んっ…好きじゃ…ない…っ」

「どうかな?」

艶やかな丸みの上を撫でては叩く。パン、という音が響くたびに光の体がビクビクと震えた。

「ほら…さっきよりもだらしなく涎垂らしてるね。これじゃお仕置きにならないかな?体がほら…悦んじゃってる」

「だめっ…んっ!」


もたれ掛かっていたドレッサーから起こされると、後ろから膝を抱えられ、大きく脚を開いた状態で抱き上げられた。乱れたガウンの間からは、痛いほど起立したモノが漏れ出した雫を滴らせている。幹を伝うそれは、淫靡な光沢を放っていた。そんな姿を鏡に映されて、途轍もない羞恥が光を襲う。しかし同時に底知れない快感が、すぐ隣で息を潜めている気がした。




「ほらね…まだ触ってもいないのに。こんなに感じてる。光、今夜は優しくしてあげられるか…分からない」

「い、いよ…もう…俺だって我慢できない…っ…ん」

光の言葉に、新之助の目尻が嬉しそうに下がる。抱きかかえていた体を元に戻すと、次の瞬間にはサッと横抱きにしていた。

「あっ…しん、のすけ…っ」

「続きはベッドでしよう。まだまだ、たっぷり時間はあるから…可愛がってあげるよ光。お前が欲しくてたまらない…!」






広い部屋の、大きなベッドに転がされた。自分の上に圧し掛かる彼の重み、熱い体温、荒い呼吸。


全てが自分に向けられているのだと思うと、湧き出す泉のような幸福感が光を満たしていった。










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