警告
この作品は<R-18>です。
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一話
心地よい風を受けながら空を見上げる。日陰で寝そべりながら、イヤホンから流れる頭が痺れるようなシャウトを聴いていた。目を閉じて鼓膜が震える心地よさに身を任せていたら、急に爆音が消えて、静かな風の音に切り替わる。
「・・・おーい。またこんなとこでサボッて。もう昼休みになったぞ。」
イヤホンを外されて目を開けるとそこには親友の堀切賢吾<ほりきり けんご>が立っていた。
「あー。もうそんな時間?じゃあメシにすっかなぁ。」
藤崎光<ふじさき ひかる>は気だるそうに起き上がった。黒い髪はツンツンに跳ねさせていて、左側の前髪から斜めに真っ赤なメッシュが入っている。
少し乱れてしまった後頭部の髪型を気にしながら、イヤホンをまとめてipodと
一緒にポケットへ仕舞い込んだ。
「お前さぁ。メシっていっても購買のパンもうほとんど売り切れだぞ?ったくしょーがねーヤツ。ほら、俺が適当に見繕ってきてやったからよっ!」
賢吾はそう言ってサンドウィッチと焼きそばパンを光に投げた。
ため息をつく彼の肌は浅黒く日焼けしていて、いかにも健康といった雰囲気だ。それに対して光といったら透けるように白い肌。
「サンキュ。メシ無いなら無いでよかったんだけどな。」
「そんなんだからお前いつまでたっても、んな細っこいんだよ。」
細っこいと言われると光もいい気分ではない。スレンダーと言って欲しい。
光の好きなパンクロックのファッションにはこのくらいの体型がしっくり来るのだ。それに元々、食べることにあまり執着が無いのも事実である。
二人は学校の屋上でパンをかじりながら、昼休みを過していた。
「朝来てたと思ったら、次の時間には居なくなってるしよー、それなのに成績俺よりも良いとかありえねぇ。」
「まぁ、勉強は要領得れば別に授業受けなくても何とかなるんだよ。」
「おい。それ俺に対する嫌味か?!」
持っていたカフェオレを飲みつつ、賢吾は反論する。いつものやりとりだ。光は思わず笑ってしまう。
「てめっ、笑ってんじゃねーよ!」
「ゴメン、別に嫌味言ったつもりじゃないんだけどね。てゆうか飲み物俺にもくれる?焼きそばパンで口の水分がゼロになってきた・・・」
「うんうん、焼きそばパンは美味いけど、水分取られるよなぁ〜って悪いけどカフェオレ一個っきゃないから、俺の飲んでたのでいいか?」
差し出されたカフェオレは500mlの紙パックだ。片方が開けられていて、そこにストローが刺し込まれている。さっき賢吾が銜えていたストローに口をつけると、光はわずかに心臓が高鳴る。
「あー、焼きそば流れてった。じゃ、また寝るかなぁ。」
また床にゴロンと横になってしまった光に賢吾は呆れる。
「お前、パン一個でよく満腹になるな?サンドウィッチ食わねぇなら俺が食っちまうぞ?」
「・・・どうぞ?ていうか賢吾が買ってくれたパンでしょ?食べていいよって俺が言うのもヘンじゃない?」
「まーそうだけど。お前、俺と身長5センチくらいしか変わらないのに全然体重違うだろ?こんだけ食細けりゃそうなるだろうけどよ・・・大丈夫か?」
妙に心配してくる親友に光は笑顔で答えた。
「大丈夫だよ。ちょっと寝不足なだけ。制服直してたら深夜までかかっちゃってさ。」
「制服直すって?破けたりしたわけ?」
「んー違う。自分仕様に変えたの。」
光は裁縫が得意だった。最初は古着なんかをリメイクしたりしていたのだが、段々とエスカレートしていって、今では独学で服まで作れるようになっていた。自分の体型にぴったり合って、尚且つロックテイストをミックスした私服はほとんどが自作、またはリメイク品なのだ。
そんな、衣服にはこだわりのある光はベーシックなデザインのブレザーである高校の制服が嫌いだったのだ。前々から色々と細かいところを変えていたのだが、昨日もその影響で寝不足なのだった。
「で?どのへん変えたわけ?寝てたら分かんねーよ。」
そう言われたので、光はむくっと起き上がって説明しだす。
「賢吾のブレザーってLサイズでしょ?」
「そうだけど?」
「俺もLサイズなんだよ。元々。」
「はぁ?!この小っさいブレザーが?!」
賢吾は光が脱いで手渡したブレザーを広げて驚く。
「俺さ、腕が長くて、腕の長さに合わせるとどうしてもLサイズになっちゃうんだよ。でもそうすると、胴回りとかブカブカで超ダサイの。だから上手く詰めて、細身に仕上げてるんだ。」
賢吾は自分が来ていた標準Lサイズのブレザーを脱ぎ捨て、光のブレザーを羽織ろうとしてみた、が。腕が途中でつっかえて着られない。
「お前こんな細いんだなぁ。マジでもっとメシ食えよ。俺と同じ男と思えないぜ・・・この細さ。」
近づいてきた賢吾は着られなかったブレザーを光の肩に掛けてから、ガシっと腰を掴んでしみじみ言った。
その瞬間、光の心臓はドキっと跳ね上がった。顔が熱い。赤くなっているかもしれないと思ったから、思わずプイっと背を向けた。
「るせーな。細い細いって何回言えば気が済むんだよ。俺はな、着たい服のためには努力を惜しまない男なんだよ!」
本当は食べても太らないし、筋肉も付きにくく、特に努力などしていないのだが、赤くなっているかもしれない顔を賢吾に見られたくなかったから悪態をついた。
「ワリ!別に細いってもそれがイイって女もいるし、気にすんなよ。俺はお前があんまりにもメシちゃんと食わないから心配でさ。怒ったか?」
――オンナ。
そう言われると心がズキッと痛む。女には・・・興味が無かった。
自分が好きなのは―・・・光はその後の言葉をさえぎるように頭を振った。
「別に怒ってねーよ。心配かけちゃってるな、俺。家ではちゃんと食べてるからさ。ガッコ来るとついつい睡魔に負けちゃって。」
「そっか。ならいいんだ。」
フッと微笑む賢吾が空を見上げる。太陽が似合う男だと思った。
賢吾がこんなに綺麗に日焼けしているのは、サッカー部だから。毎日毎日、グラウンドで走り回っていると、自然とこんがり小麦色になっていく。身長は174、5センチある光がすこし見上げるくらいある。確かサッカー部に入部する時の申し込み用紙には180センチ、70キロとあった。
逞しくて筋肉質の体つき、精悍で少し野性味を帯びた目。ホリの深い顔立ちは綺麗にパーツが並べられている。短く刈り込まれた髪は爽やかで女子に絶大な人気のある男だ。一年の時に席が前後だったことから仲良くなった。
人懐っこい性格の賢吾は人見知りな光に色々話しかけてくれて、徐々に心が溶かされていった。二年になった今もまた同じクラスになれて本当に良かったと
思っている。
親友だから。
親友・・・だから?
「なぁ。光さー、その耳、一体何個付いてるわけ?」
空を見上げていた賢吾をじっと見つめていた自分に気づいてハッとする。
急に話が変わって一瞬ハテナマークが頭に浮かんだ。
「え?何?」
「そーれ。ピアス。」
光の耳に所狭しと並べられた、キラキラ光るもの。
「ああ、今日は全部付いてるから・・・確か左5、右4だったと思う。」
「マジかよー、今日はやけに眩しいと思ったら・・どれどれ・・・」
この高校は服装がほとんど自由だ。制服を着崩している生徒がほとんどを占めている。女子生徒のスカートもミニになる一方だ。光のようにピアスをジャラジャラとつけている生徒もいっぱい居る。賢吾は体育会系なのでそういったものに無縁だった。
くいっと左耳に触れられた。軟骨部分に開けられたピアスが痛々しいと感じるのか、ガーネットの赤い石に優しく指が当たる。
「んっ・・・」
堪らなくてヘンな声が漏れてしまった。頭から冷や水を浴びせられたように焦った。
「ゴメン!痛い?!」
「いや、大丈夫・・・」
顔がまともに見られない。
「・・・お前・・・エロい声出すなよなぁ〜」
賢吾が揶揄うようにニヤニヤと笑っている。ああ、大丈夫だ。いつもと変わらない、いつもと同じ賢吾だった。
「俺は耳が弱いんだよ!気安く触るなっつーの。見るだけだと思ったからビックリしたんだよ・・・」
語尾がモゴモゴと弱く消えていく。ヘンに言い訳するのもおかしい気がして。
「まーな、耳は誰だって弱いわな。お、そろそろ教室戻らねーと。光も行くぞ。今日はもうサボんなよ。」
「わーった。じゃ、行くか!」
制服のスラックスをポンポンと叩いてから屋上を後にする。
扉を開けて階段を下りる賢吾の背中を、光は見つめていた。
左耳が疼くように甘く痺れているのを感じずには居られなかった。
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