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第十章『空蝉』三
木の幹から、少し離れた場所。
でも風は、ゆるやかに桜の花びらを届けてくる。
はらりはらりと天より下される、穢れなき白い花。
その中に佇む若君と姫は、絵巻物の情景をそのまま写し取ったように幻想的で、この世のものとは思えないほどだった。
誰も二人の間に入ることは出来ない。
そう、横からじっと物語の成り行きを読むことしか許されないのだ。
「雄那様」
「常磐姫?」
雄那の目が見開かれる。
二人の視線が絡み合った。
その瞬間、場にいたすべてのものが二人の前から姿を消す。
ただ互いの存在だけが、感じられるすべてとなる。
熱いまなざしで本当にこれは夢でないのだと確かめると、雄那は常磐の側に歩み寄った。
腕を伸ばし、彼女の頬にそっと触れる。
「わたしは夢を見ているのか。今、この桜を見ながら、竜神にあなたのことを希った――幻でも良い、今一目会わせて欲しいと」
優しい声に、常磐の目が熱く潤んだ。
「雄那様、わたしもお会いしとうございました」
「間違いなくあなたなのだな。夢でも幻でもなく」
「はい」
頬に涙の滴を光らせ、常磐はうなずく。
次の瞬間。
雄那は強い力で彼女を引寄せ、胸にしっかりと抱きしめた。
「何と言うことだ。天がわたしの願いをかなえてくださるなんて、こんなことはありえない。でもそれでもあなたは今、ここにいる。わたしは胸がはちきれそうだよ」
会いたかった、と想いを込めたささやきを、雄那は常磐の耳に落とす。
「わたくしも、ずっとあなた様のことだけを想っていました。どんなことをしてもお会いしたかった。だから」
「姫。わたしに会いに来てくれたのだな。都からたった一人で」
「はい。ご迷惑とは思いましたが」
常磐の声が、悲しく響く。
雄那は怪訝そうに彼女の顔を覗き込んだ。
「迷惑だなんてそんな――わたしの方こそ、どれだけあなたに会いたかったか」
「本当でございますか」
「当たり前だろう。あなたはこの世でただ一人、わたしが心を捧げられる人なのだ。そのあなたがわたしの腕の中にいる。まだ信じられないくらいだよ」
雄那は、華奢な体を一層強く抱きしめる。
大切なものを離すまいとする彼の表情はせつなくて、でもとても幸せそうに見えた。
互いの温もりを感じあったあと、二人は体を離し、微笑んで向き合う。
「姫、今宵のあなたは、どうしてこんなに綺麗なんだろう。今までだってずっとあなたは清らかで愛らしかった。でも今夜は、いつにも増して美しい。わたしは何度でもあなたに恋してしまう運命のようだ」
雄那の物憂げな声に、常磐は寂しげに微笑んだ。
「勝手に来てしまって、すみません。わたくし、お邪魔ではありませんか」
「何だって? どうして君が邪魔だなんて言うんだい」
雄那の目が険しくなる。
「愛しい君を邪魔だなんて、そんなことありはしないよ」
「ご本心でございますか」
常磐は、潤んだ瞳で彼に再度問いかけた。
その様子に、雄那はけげんそうな顔をする。
「おかしいね。君はわたしの心を疑っている。何かあったのかい」
常磐は顔を上げ、真っ直ぐ彼を見つめた。
どんな些細な表情の変化も見逃すまいとするかのごとく――真剣なまなざしが雄那を射抜く。
愛しい少女のそんな態度は、雄那自身の心をかき乱した。
不安が、するりと彼の中に入り込む。
常磐は震える声でささやいた。
「嫌なうわさを聞いたのです」
「うわさ?」
「親王様のお供をして上州から帰還された方たちが、いろいろと――」
そう言って、常磐は目を伏せ、俯いた。
「あなたの突然のご帰郷は、なんでもこちらの領主様のたっての願いとか」
雄那の顔が瞬時にこわばる。
「領主様の姉姫とあなたのご結婚を領主様は望んでおられ、今回ぜひにとあなたを呼ばれ、説得されておいでだというのは本当なのですか」
二人の間を、春の夜風がさあっと吹きぬけた。
桜の白い花びらが音も立てず、足元に舞い落ちる。
一時の沈黙が、二人の間を支配した。
見つめあい、互いの瞳を探りあう。
沈黙は、すぐに破られた。
「姫、それは――」
雄那の口から言葉が出る。
だがそれを最後まで言わせず、常磐は遮った。
「わたくし、それを聞いて、どうしたらよいかわからなくなって」
「……」
「だってあなたが仰っていた親王様の一件は、親王様が都に戻られた時点でもう解決されていますでしょう。でもあなたは全然お戻りにならないし――領主様のお姉様なら、きっとご身分だってあなたによくつりあいます。それにとてもお美しい方だとか」
「それであなたは、わたしが心変わりしたとでも思ったのか」
「都をお発ちになってからもう四度、月の変わり目を迎えました。最初の頃は頻繁に下さったお文も、日を追うごとに来なくなる。それでももちろん信じておりました。あなたがお忙しいことは、誰よりもよく存じています。わたくしのことでお心を乱してはならないと、いつも心得ておりました」
「姫」
「でも親王陛下が大役を果たされ、お戻りになったとき、このうわさを聞きました。その時のわたくしがどんな気持ちだったか、とてもお話しすることは出来ません。本当に死んでしまいたいくらい、苦しかった」
常磐は顔を背け、歪んだ表情を見せまいとする。
彼女の苦しさと悲しみが嫌でも伝わってきて、雄那は衝撃に返事も出来ないくらいだった。
それ以上何も言えず、常磐は顔を背けたまま、低い嗚咽を漏らす。
袖を目に当て泣き出す少女を、雄那は近寄り、優しく抱きしめた。
「姫、許して欲しい。あなたをこんなに苦しめてしまうとは思わなかった」
強く、強く抱きしめて、彼は何度も彼女に許しを請う。
胸の中ですすり泣きながら、常磐は自分の想いを吐き出した。
「いつもわたくしは不安なのです。あなたは皇帝陛下の側近であられ、わたくしなど手の届くはずもないお方。しがない下流貴族の姫など一時のきまぐれにすぎないのでは――と」
「そんな」
「領主様は、あなたの古いお知り合いとか聞いておりましたから、その方の頼みならあなたも断れないかもしれない。いいえ、あなたにとっては、本当に良いお話ですわ。わたくしなどよりずっと」
「……」
「でもどうしてもあきらめきれなくて――あなたの本当のお心が知りたかった。それにこちらの領主様のお気持ちも」
「光竜様の気持ち?」
「こちらに来てから、わたくし、いろいろうわさを調べました。そしてあなたがまだ領主様の説得に応じていないことを知ったのです。わたくしにもまだ可能性があるかもしれない。そう思うようになりました」
「可能性も何もあなたしかいないじゃないか、わたしの妻になれる人は」
雄那の強い肯定の言葉に、常磐は涙にぬれた頬を上げる。
「姉上様をあなたの妻にと願い、旧知の縁を使って、あなたを無理やり説得しようとしているのなら、わたくしがお側に上がり、心を込めてお仕えすれば、わたくしの事を認めていただけるかもしれないと思いました。それで州城に上がったのです」
「州城に上がった? あなたが?」
「光竜様にわたくし、なんとしてでも認めていただきたかった。わたくしもあなたの妻になれる姫だと。姉上様も、もちろん素晴らしい姫なのかもしれない。でもわたくしだって一生懸命お仕えしたら、光竜様はわかってくださるかもしれないと思って……それで……」
常磐はそこで言葉をとぎらせる。
雄那の胸にすがり、少女は瞳を閉じて、出なくなった言葉の先を噛みしめた。
「ちょっと待って、姫。あなたは今どこで何をしているのか。あなたの口ぶりでは――その、光竜様に会われたのか」
「はい。お仕えしたいと申しましたら、光竜様は困惑なさいました」
「……」
「更に光竜様をお慕いしているものと勘違いされ、華玲姫と対面したのです」
「華玲姫とも会われたのか」
予想もつかない事実に、雄那は困惑のまなざしでつぶやく。
「華玲姫は、わたくしをお側においてくださいました。そしていろいろ気遣ってくださって――本当に良い方ですね。わたくし、たくさん勇気をいただきました」
華玲の名を口にしたとき、常磐は少し柔らかな口調になった。
「州城で華玲姫の館にいながら、わたくしはもっとあなたのことを知りました。そしてまた不安になったのです。ほとんど毎日、あなたは自ら光竜様の元を訪れていらっしゃる。遠乗りや釣りなどよく一緒に外出し、一日の半分を共に過ごすほど仲が良いということを知り、わたくしはあなたが光竜様のご意向に沿うおつもりなのではないかという思いにかられて、とても辛くなりました」
「姫……ではあなただったのですね」
雄那は驚きで声をあげる。
「光竜様の側に仕えたいと都から突然押しかけてきた姫というのが、あなたのことだったとは」
「はい」
常磐は小さくうなずいた。
「あなたが光竜様と華玲姫の館に来られたとき、わたくし、驚いてお茶器をひっくり返してしまいました。まさかこんな形で、あなたにお会いすることになろうとは思ってもいなかったから――でも不安にかられ、苦しむわたくしを、華玲姫が助けてくださったのです」
「華玲姫がですか」
「あなたの気持ちを確かめるのが怖くて、震えていたわたくしに、華玲姫は仰いました。『憶測は何も生まない。自らの考えだけで物事を諮らずに、きちんと相手に確かめるべきだ』と」
常磐は小さく微笑む。
「あの方は真っ直ぐなお気持ちで、わたくしに道を示してくださいました。報われなくても、見返りがなくても、華玲姫は光竜様を愛していらっしゃる。どんなに否定されても、決して想いが変わることはない。その強さを見て、わたくしもそうありたいと思ったのです」
雄那の瞳が揺れた。
常磐の真摯な心が、まなざしを通して彼の心に染み渡る。
「あなたがお心を変えられたとしても、わたくしはの想いは一つ――いつまでもあなたをお慕いするでしょう。それをお伝えしたかった」
「常磐姫」
雄那の声が震える。
男として今、最高のものを与えられているのだと、彼は感じていた。
地位や名誉、財産ではなく、一人の女性の心を永遠に得ること。
それはきっとこの世のどんな宝にも勝る代え難いものであるだろう。
惜しみなくすべてを捧げられ、彼の心は激しく震えた。
甘美な疼きと熱い情熱に、全身が満たされていく。
返したい、と心から思った。
受けたものに勝るとも劣らぬほど価値のあるものを、自分も彼女に返したい。
常磐が目を見開く。
雄那がその場に膝をついたのだ。
彼女の前に跪き、深く頭を下げて、腰帯の端を手に取る。
「ゆ、雄那様、そんな……」
常磐は狼狽した。
それもそのはず――身分高き貴族の身である雄那が膝をつくのは、皇帝陛下とわずか数人の高官たちに限られる。
それのみならず陛下に変わりなき忠誠を誓うのと同じように、少女の衣の一部を手にし、それに口付けたのだ。
「常磐姫、わたしはあなたに誓いを捧げたい。わたしの心は永遠にあなた一人のものだと」
真剣なまなざしと熱い声で、雄那は続けた。
「わたしの命は皇帝陛下に捧げたもの。わたしは陛下のお側で生涯お仕えし、変わらぬ忠誠を誓った。だからあなたに命を捧げるという言葉を使うことは出来ないが」
彼は愛しい姫を見上げて微笑む。
「あなたには、わたしの心を差し上げよう。この先どんなことがあったとしても、わたしの心は永遠にあなただけのもの。どうか受け取って欲しい」
「雄那様」
常磐姫の頬を、新たな涙が伝う。
何度も袖で涙をぬぐいながら、彼女はやっとうなずいた。
桜の花が、二人に降り注ぐ。
まるで天が二人を祝福しているようだ。
白い清らかな花びらが、見詰め合う若君と姫を優しく包む。
雄那は立ち上がり、その勢いで姫を強く抱きしめた。
もう二度と離さない。
そんな熱い想いを込めて――。
それは、まわりからみたらほんの一時にしか過ぎなかった。
でも抱きあう二人にとっては、永遠にも等しい時間。
想いを互いの温もりで感じあい、ぴったりと寄り添って唇を重ねる。
周囲の喧騒がすべて消え去り、互いの存在しか感じられなくなる瞬間は、二人の魂に愛の印として刻み込まれた。
抱擁と接吻を何度も交わし、雄那はやっと抱きしめた腕を緩める。
常磐を離し、その目を見つめて微笑んだ。
「常磐姫、あなたはわたしの知らない間に随分苦労をされたようだ。わたしの配慮が足りなかった。許してくれ」
「そんな……雄那様」
「でももう二度とこんな想いはさせないと約束しよう。今日からは、わたしがあなたを守る。さあ姫、わたしの屋敷に行こう」
「え?」
「華玲姫の館はおいとまして、わたしの実家に来るのだ。父や母、皆にあなたを紹介したい。わたしの妻になる姫だと」
雄那の言葉に常磐は驚いた顔をし、それからまた泣きそうになった。
「雄那様のご実家に? ご家族の方にわたくしをお引き合わせくださるのですか」
「あなたのことは、すでに話してある。上州での一件が片付いたら、あなたを連れてくるつもりだった。少し時期が早くなったが、むしろわたしには喜ばしいことだ。父も母もあなたに会うのを心待ちにしているよ」
「本当でございますか」
顔をゆがめ、喜びにまた涙をこぼしながら、常磐は雄那の胸にすがりつく。
「嬉しゅうございます。わたし……わたし……」
あとは涙で声にならない。
雄那はそんな彼女を、また優しく抱きしめた。
「都に帰る前に祝言を上げることにしよう。都では、わたしの養父母の元で婚姻の儀を行わねばならないが、やはり実家の父母の家でも行いたいもの。ささやかなものとなるだろうがね」
「はい」
「ここでやれば、光竜様や華玲姫をお呼びすることも出来る。お二人とも良い方たちだから、きっとわたしたちを寿ぎ、祝福してくれるだろう」
「え? でも」
常磐は首を傾けた。
「よろしいのですか。華玲姫はともかく光竜様は――」
常磐の疑問を読み取って、雄那は説明する。
「実はね、姉君との縁談話は嘘なんだ。わたしと光竜様が気兼ねなく現状の対策を話し合うために、二人が親密でもおかしくない何らかのの理由が必要だったんだよ。それでわざと光竜様が、うわさを作って広めたんだ。これのおかげでわたしが毎日光竜様の元を訪れても、誰も勘ぐる者はいなくなり、事を進めるのに都合が良くなったんだよ」
「まあ、そうだったんですか」
常磐は目を大きく見開く。
「わたくし、そんなことも知らずに、余計な心配をしてしまったのですね」
「姉君にはたくさんの縁談が寄せられている。わたしなど担ぎ上げなくても、心配ないくらいの良縁をお持ちの方だ。だから大丈夫。あなたが心痛めることなどないんだよ」
雄那の言葉に常磐は安心し、またその身を寄り添わせた。
「わたくし、幸福でいっぱいです。まるで夢の中にいるみたい」
「現実だよ、姫。これからそれをたくさん感じさせてあげよう。わたしのこの腕でね」
二人はまたぴったりと体を寄せ合う。
淡い月の光に見守られ、いつまでも離れることなく、二つの影は静かに溶け合った。
そこだけ時が止まったかのような光景を、香蘭は黙って見つめていた。
布を更に深く被り、絶対に彼女の存在を気づかせないようにしながら――。
真実がすべての幕を取り払い、今、目の前に晒される。
それはあまりにも美しく、あまりにも哀しいものだった。
(だから常磐姫は、あたしに必死に仕えたいなんて言ってきたのね)
疑問の氷が解けて、心の内に沁みていく。
初めて自分の前に彼女が現れた瞬間が思い出される。
小さな体は震えていたが、若葉色の瞳には誰にも覆すことは出来ない切実な意志が燃えていた。
(雄那様を愛していたから――雄那様のためだったんだわ)
自分が雄那への恋心を抱き、一喜一憂していたとき。
彼女もまた彼への狂おしいほどの想いに悩み、それでもずっと愛し続けた。
心の中に敗北感が広がる。
苦い、やるせない失恋の味が口いっぱいに広がり、全身を駆け巡った。
それは体に合わない苦薬を飲み込んだような、なんとも嫌な気分だった。
頭の芯までしびれて、思考が徐々に不安定になる。
何を考えていいのか、自分が何をしたら良いのか、すべてが朦朧としてわからなくなった。
立ち尽くし、ただ目の前の幸せな二人を瞳の中に映すだけ――。
何度も思いを確かめあい、二人は幸せに微笑み合う。
雄那が――香蘭が初めて好きになった彼の唇が、強く常磐の唇に押し当てられた。
(あ……)
自分じゃない誰かを腕に抱き、深いまなざしで愛しげに見つめ、口付けをする。
そんな彼の姿を見て、心の奥に亀裂が入った。
硝子の割れるような、美しくせつない音が全身に響く。
――心が、割れていく……。
壊れた想いの欠片が胸の内に降り積もり、香蘭の感情を黒い闇へと染めあげた。
(嫌……もうこれ以上、ここにいたくない)
香蘭は顔を背け、二人の側から足早に遠ざかっていった。
遠く、遠く、現実から逃げるように。
絶対こんな自分が見つからないように――人ごみの更に奥へと。
盛大な花火が景気良い音をたて、夜空を彩った。
次々とあがる美しい光に、人々は歓声をあげる。
祭りの最高潮を飾るにふさわしい、儚くて夢のような光の粒が、天井で華やかに割れ、大気に熔けて消えていく。
今宵、愛を確かめ合った多くの若者たちを祝福すべく、花火は何度も夜空に輝いた。
でも――。
その光が、すべての人に届くわけでは決してない。
あれだけ楽しみにしていた花火。
あの人と一緒に見られると、淡い期待を寄せていた時間。
そのすべては一瞬で霧散し、あとには何も残らなかった。
想いのすべてを打ち砕かれ、闇をさ迷う香蘭の耳には、どんな些細なものも入ってこない。
人々の笑顔も、美しい花火の音も、華やかに天井をめぐる光も。
すべてのものが色をなくし、むなしいだけだ。
彼女は城門の隅に座り込み、せっかく新調した美しい衣が汚れるのもかまわず、膝を抱えて顔をうずめる。
たくさんの人がその場にはいたけれど、誰一人沈み込む少女になど気づくことはなかった。
賑やかなお祭りの喧騒と花火の音が、押し殺した慟哭を消していく。
民の歓喜に酔いしれる声の中、彼女は一人静かに泣き続けた。
花火が終わると、祭りはお開きとなる。
三々五々人々は家路に向かっていった。
雄那と常磐姫も、仲良く連れ立って城門を通り過ぎていく。
薄暗い隅に佇む少女のことなど、気にも留めるわけがない。
幸福に胸躍らせながら、二人は互いの顔だけ見て、門をくぐって去っていった。
人の流れが、州城から外へとあふれ出す。
先ほどまでの賑やかな音は少しずつ消えていき、興奮の声は城下町に広がった。
一刻も経たないうちに城門が閉められ、州城に元の静けさが戻る。
――初めての祭りが終わったのだ。
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