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29:氷解する心
「あなた、さっき私に言ったことは嘘だったの?返答次第ではタダじゃおかないんだから……」

「冴子ちゃんって本当にキレやすいんだね。俺は冴子ちゃんに断られてしまったから、代わりにママさんをお誘いしただけなのに……ま、怒った冴子ちゃんも綺麗だから許せるけどねっ!それに冴子ちゃん、こんな所でそんな『気』を全開にしちゃったら……」

「馴れ馴れしく冴子ちゃんなんて呼ばないでっ!それに綺麗だなんて……」

もしもし冴子ちゃん、俺の話しを最後まで聞いていましたか?それにこの状況で、耳朶まで真っ赤にしながら照れている場合じゃないでしょっ!銀ちゃんを含め3人のヤクザ者たちは、彼女が放つ『気』に当てられてしまい、床に蹲り苦しそうな呻き声をあげている。

「冴子ちゃんったら照れちゃって、本当にかわいいわねぇ〜♪でもそれぐらいにしないと、罪もない銀ちゃんたちにとってはあまりにも理不尽よ。」

「やだ、私ったら……みんなゴメンね、本当にごめんなさい。銀ちゃん大丈夫?」

「お嬢、俺たちが大丈夫に見えますか?いつも『気』使うのはほどほどにしてくださいと、口うるさく言っているのに。アレをまともに食らったら、普通の人間は本当に死ぬほど苦しい思いをするのですよっ!」

ママさんから止められ、ようやく我に返った冴子ちゃんは、気を霧散させ、苦笑しながら銀ちゃんたちに本当に申し訳なさそうに謝っている。

「冴子ちゃん、お客さんに料理を出し終わったらあなた達にもコーヒーを出してあげるから、それまでそこでお客さんと世間話しでもしてなさいよぉ〜♪」

ママさんは、俺の隣の席に指差して冴子ちゃんへ座るように言うと、何事もなかったかのように調理を始めている。気まずい雰囲気の中、俺が左手で隣の椅子を引いて冴子ちゃんに座るように目で促すと、彼女は押し黙ったまま俺の隣に座り、冴子ちゃんに続いて銀ちゃん達も渋々といった感じでカウンター席のすぐ後ろにあるテーブル席へと着席している。

『ジュゥー、カランッ、カンッ、カランッ、カンッ……』

ママさんは炒め物を調理しているようで、高温の油がフライパンの上で踊る音や、フライパンとお玉のリズミカルな金属音が、まるで音楽を奏でるかのように微妙な空気が漂うカフェに響き渡っている……俺はこの状況をなんとか打破しようと色々と考えてみたものの、適当な言葉を見つけることもできず、ただチビチビとビールを舐めるように飲んでいた。すると突然、冴子ちゃんが俺の顔を覗き込みながら問い掛けていた。

「ねぇ、あなたに聞きたいことがあるんだけど、いいかしら?」

「構いませんよ。でも、間違っても私の女性経験なんて聞かないでくださいねっ!ハハハハッ……」

「バカ……私のパパが『総和会』の組長だと知っても、あなたはまだ私をまだ誘ってくれる?本当にヤクザが怖くないの?」

「ええ、冴子ちゃんが例えヤクザの組長の娘だろうが、絶対に誘わせてもらいますっ!あなたみたいな美しい女性と出会える機会なんて、そうそうあるものではないでしょうから……それから先ほども言いましたが、俺は冴子ちゃんが想像できないぐらい強いですし、ヤクザなんて怖がってたらうちのジジィの仕事や、武系の筆頭なんて務まりませんよっ!」

少し寂しげな瞳を見せ、まるで訴えかけるような冴子ちゃんの問い掛けに対し、俺はいつになく真剣な表情で答えていた。

きっと彼女は幼い頃よりヤクザの娘だと世間からは冷たい目で見られ、陰口を叩かれたり恐れられたりしたりと、辛く寂しい思いをしながら育ってきたに違いない。まぁ一般的にはそれが常識なんだろうが、俺にとってそんな些細なことなんて関係ない。本当に美しい人に美しいと言って何が悪いっ!というのが俺の正直な感想だった……

「嬉しい……今まで私にそんなことを言ってくれた人はあなたが初めてよ。でも、自分で自分を強いって言うのはかなり胡散臭いわよ。ウフフフッ……」

「怒った顔も捨てがたいけど、やっぱり冴子ちゃんには笑顔が一番似合いますよっ!」

「バカ、本当に上手なんだから……お姉さんをからかうもんじゃないわ。まだあなたの名前を聞いてなかったわ、よかったら教えてくれないかしら?」

「これは失礼しました。苗字は色々と事情があってまだ明かせませんが、通りすがりの政影君とでも覚えていただけた嬉しいです♪」

「アハハハッ、あなたって変わった人だと思っていたけど、面白い人でもあったのねっ!それに不思議な人。政影君の前でいくら自分を装ったとしても、全てを見透かされてしまいそうな気がするわ……」

俺は冴子ちゃんの屈託のない笑顔に微笑みを返しながらも、彼女の直感の鋭さに心の中で感心していた……
ド素人で飽きっぽい作者がろくに構想も練らず、見切り発車で書き始めたこの作品も、読者の皆様方のおかげでなんとかここまで進むことができました。

これからもご愛読のほど宜しくお願いいたします(礼)


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