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05:帰国
「んーーーっ……」

私は到着を告げる機内アナウンスを聞きながらシートの上で両手を組むと、天井に届くかのように突き出して大きく伸びをする。

「3年振りかぁ……みんな元気にしているのかしら?」

私は独り言を呟きながら、大切な人達へと想いを募らせていた。

私の名前は【綾波 椿ツバキ25歳】綾波家の長女であり、カエデの姉。

私は御前(鷲津 政重翁)の密命を受け、表向きはケンブリッジ大学への留学という名目である『物』を研究開発するために、3年ほど前から御前のご友人であられるエディンバラ公の所有するロンドン郊外の別邸に暮らしていたのだけど、ある程度めどがついたこともあってこの度帰国することになった。

「間に合って良かったわ。いくら御前の密命とはいえ、『アレ』に間に合わなかったら本当に洒落にならないところだったんだからっ!」

到着ロビーにて荷物を受け取った私は一人で安堵して感慨に耽っていた。

帰国することを誰にも告げていなかったので当然のように出迎えなんてあるはずもなく、私は大きなスーツケースを両手で抱えて客待ちをしていたタクシーにフラつきながら乗り込もうとしていたところ……

「おいっ!椿じゃねぇのか?」

いきなり背後から大声で呼ばれた私は、驚きのあまりスーツケースを落としてしまいそうなのを必死で堪えていたのに……抵抗の甲斐もなく、私はスーツケースを抱えたまま尻餅をついてしまった。

「キャッ!」

短い悲鳴をあげた私は公衆の面前で転んでしまった恥ずかしさと、あまりの痛さのために涙ぐみながら振り返った。

「やっぱり椿だっ!それにしてもどうしたんだい?木にしがみついてるコアラの真似なんかして?クククッ……ガハハハハハ八ッ!」

圭吾けいごおじ様!」

目の前で豪快に笑う男性は【氷室 圭吾 38歳】氷室家の当主であり、主家にあたる如月家の方々に体術(主に素手での格闘)を指南する役割と、草薙家、神薙家と共に鷲津家当主からの命によって情報収集やらなんやら裏でいろいろとやっているらしい。

らしいと言うのも武系四家(如月、草薙、神薙、氷室)の仕事内容は鷲津一族の中でも当主格にある者にしか伝えられていない機密情報であり、例え家族であっても話題に上げることさえも禁句タブーとされていたから。

だけど鷲津一族のどんなに小さな情報であっても全て掌握してて、それを不思議に思った怖いもの知らずのいもうとが15年ぐらい前にお父様に何気なく聞いた時、私達になんて怒った姿など見せたこともない温厚なお父様が、烈火の如く怒りまくってたわよねぇ。

「おじ様っ!笑いすぎじゃありませんこと?そもそも、おじ様がいきなり後ろから大声を出されるから、私がこのような失態を晒してしまったのではないですかっ!」

「本当に悪かったっ!この通り誤るから許してくれ。」

頬を大きく膨らませながら下から睨みつけ、ギャーギャーと抗議する私を見ておじ様は、大きな体を縮こませて本当に申し訳なさそうに頭を下げながら頭の上で手を合わせている。

「まぁおじ様の大声は、今にはじまったことではありませんし、悪意があってやったことではありませんので、今回だけは許して差し上げますわっ!ウフフフフッ……」

私が微笑むのと同時に、おじ様はまるでグローブのような大きな掌を差し出すと、私の掌を掴んで優しく引き起こしてくれた。



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