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やはり2話目のすぐ後の話です。
3.朧月の庭
 夏至の祭りまであと二月あまり。その頃になって、やっとこの山間の領地にも春がやってくる。
 高地にあるので空気は澄んでいることが多いが、今日は昼間から暖かく、空気も湿気を含んで柔らかい。半月から少し膨らんだ月が霞んで見える。
 夫に愛を告げられたのも、この庭だった。頭上には秋の澄んだ空気の中、満月が煌々と輝いていたことを思い出す。雇われ冒険者だった当時の彼女は、公明正大で、強く、優しい夫に好意を持ってはいたが、身分が違い過ぎるのは承知していた。だから彼を恋愛の対象として考えたことが無かった。
 結婚して欲しいと言われた時、「お妾ということですか」と尋ね返し、夫は大変に困惑したと、夫婦となった後も度々彼に冗談混じりにその話を出された。

 
 夜の散歩には戸外は少々肌寒かった。グレンについて歩きながら、レジーナはむき出しの肩を両腕で抱いた。
 そんな彼女に構わず、グレンは庭園の品定めでもするように、ゆったりした足取りで東屋へと歩いていく。下草は丁寧に刈られ、庭の至るところに薬草や花が植えられている。グレンが足を止めた近くには、キキョウの蕾が今にも開こうと膨らんでいた。
「優雅だな。花を愛でる趣味があるとは」
 広間を出てから無言だったグレンがやっと口を開いた。レジーナはほっと息をつく。
「山で咲くキキョウよ。花とはいっても根は薬になるからね。大体この庭園の植物は何かの役に立つの」
「これがキキョウか? ちっせーな」
「山で咲く亜種だからね。養分たっぷりの平地で甘やかされた、大きいだけの花とは違うのよ」
「ふうん。……まるで君みたいだ」
 真顔で言われて、レジーナは思わず言葉に詰まった。何を言っているのだろう、この男。
「ちょっと、気持ち悪いんだけど。頭大丈夫?」
「…………。キモチ悪いって、お前……。口説かれてるとか思わないわけ?」
 グレンはいささか傷ついたような表情だ。無論、これぐらいで本気で傷つくような繊細な男でないことは、レジーナも重々承知している。
「思われたいんだったら、今すぐ軍隊引っ込めて、花束でも持って出直してきてよ。……少し寒いから、つまんない冗談に付き合わせるなら、ショールを持ってくる」
 これ幸いと踵を返し、大広間に取って返そうとした彼女の肩に、後ろからマントが掛けられた。外套ではなく礼装用の、刺繍が施された軽い布地のもので、丈も腰の辺りまでしかない。今まで着ていたグレンの体温が布越しに自分に移り、妙な気持ちがした。
「ありがとう。これも口説かれてると思った方がいいの?」
 感情が形を変える前に、レジーナはいたずらっぽく笑って、グレンに話しかけた。
「ひとの親切は素直に受け止めろ。可愛げが無いな。……向こう行くぞ」
 仏頂面のグレンは顎で東屋の方を差すと、彼女の手を掴んだ。
 思わずその手を振り払いそうになるのを堪えた。レジーナの手を握ったグレンの掌からは、有無を言わせぬ確かな意志を感じる。ここで振り払ってしまえば、彼がどう出るか分からなかった。恐ろしいとも感じるのに、同時に胸の奥底が妖しくざわめく。
 他人と触れ合えば、どうしても無心ではいられない。感情が波立つ。


 蕾が揃っている空間にできた小道を抜けると、小さな池がある。風の無い夜。水面が月明かりを照り返している。背後の建物から少し離れて、木戸を開け放したままとはいえ、もう大広間の明かりはここまでは届かないが、空と水面からの月明かりが眩しいほどだった。
 池を眺められる場所に東屋があり、池の周辺は木立と潅木が覆っている。月が中天に無ければ、月光が遮られてかなり暗い場所になる。
 本来は夜間に訪れる場所ではない。木立も昼間の陽光を適度に遮るためのものだった。レジーナがここに夜に来るのは二度目。一度目は夫に愛を告げられた時だ。
 
「綺麗な池じゃないか」
 池に着いて、やっとグレンが手を離した。彼もまた小さく整えられた池が映す月とその空間が作り出している幻想的な景色に感心しているようだ。
 庭師が毎日手を入れているのだ。そう答えようとしたレジーナは、突然横から腰を抱き寄せられ、ドレスの裾を大きく捲り上げられて驚愕した。
「やだ、何するの、いきなり!」
 ほとんど反射的にグレンに向かって突き出した肘が彼の顎を捕らえたが、僅かに顔がぐらついただけで、ほとんど効いていないようだ。肩から、グレンが貸してくれたマントが滑り落ちた。
「うるさい。下着も穿いてないくせに気取るんじゃない。さっきはよくも人の手を蹴り上げてくれたな」
 グレンは右手でレジーナの引き締まった腰を抱いたまま、左手で襞が多いスカート部分をさらに捲りあげた。白い絹のストッキングに包まれた脚が覗き、その付け根が露になる。太ももまではきっちりストッキングを穿いているのに、そこは何も無く、薄い色の陰毛が渦巻いているだけだ。この上もなく淫らな光景だった。
 一気に気持ちが高ぶり、腰を抱いていた手を胸に回して乳房を揉みしだく。レジーナがか細い声をあげた。乳房を掴まれた痛みの為か、それとももう快感を感じてるのかは分からない。だが彼女の声を耳にして、グレンの股間はさらに固くなった。
 庭に呼び出してから、いつことに取り掛かろうかと考えていた。とりあえずは公都での貴族女とのように、お上品な駆け引きを楽しむのも悪くないと思ったが、相手がレジーナではそれもまどろっこしいだけで、もっと別の楽しみがありそうだった。多少のことではへこたれないだろう。

 左手を彼女の股間に伸ばす。レジーナは腰をよじってその手から逃れようとしたが、体をしっかり掴まれているせいで、大きくは動けないようだ。グレンの手は難なく目当ての場所に到達する。濃い目に生えた陰毛を軽く撫でてやると、レジーナの体が震えた。
「やめてよ、こんなところで……」
 彼女は左手でグレンを押し退けようとしているが、思い切った行動には出てこない。彼を本気で怒らせれば、事態が悪くなることはまだ理解しているらしい。
「場所なんか関係ないだろ。それとも広間に戻って連中の前で触られる方がいいのか?」
「冗談やめて」
 答えるレジーナの息が僅かに弾んでいる。彼は固く閉じられた脚の間に指を割り込ませた。指が両の太ももの間でぬるりと滑る。
「なんだ、まだ濡らしてるのか。──下着もつけないで、侍女たちの前で演説ぶった気分はどうだった? 興奮したか?」
 グレンの声がレジーナの耳を揺さぶる。骨に響いて掠めるような低い声。くらくらした。恥辱と呼ぶにはあまりに甘美だった。体の内側から、さらに熱いものが溢れてくる。
 乳房を弄んでいた男の右手が、ドレスの胸元を乱暴に引き下ろす。乳房がむき出しになった。

 グレンは一度彼女の体を離すと、両肩を掴んで正面を向けさせた。
 胸元から豊満な乳房までの白い肌は、月の光を反射させて真珠のように輝いていた。金色の髪に縁取られた、小さな卵型の顔は上気して、恥じらいの為か視線を彼から逸らした瞳は潤んでいる。美しいと思った。
 レジーナは両肩を掴まれたまま、両腕を交差させて胸元を隠そうとした。
「隠すな」
 高圧的に言うと、彼女は瞳に怒気を閃かせ、グレンを睨み返してきた。野生の獣を前にしているようだ。例えば山猫。ここの城主も、よくもこんな誇り高い女を手なずけられたものだ。
「手を下ろせ」
 豊かな乳房を抱え込むように隠したままのレジーナに、さらに言い募る。彼の力なら無理にでもその手をどけることはできたが、それでは面白くない。
 しどけない半裸のままこちらを睨むレジーナを、グレンも一瞬も目を逸らさずに見つめ返した。
 先に視線を外したのはレジーナだった。
 小さく息を吐き、胸を覆っていた手をゆっくりどける。まるで計算しているかのような扇情的な動作がグレンの劣情を煽った。
 屈辱の為か、微かに震えるレジーナの二の腕を掴み、手近な木の幹にその体を押し付けると、かがんで乳房にむしゃぶりついた。滑らかな肌と尖った乳首を直接唇と舌で味わう。舐め回していると、先端はさらに固くなった。

「あ……」
 胸から、そして体の芯から熱が流れ込み、レジーナは思わず声をあげた。慌てて右手の甲で自分の口を塞ぐ。広間からかなり離れて、木立に隠れているとはいっても、木戸は開け放したままだ。向こうの喧騒も聞こえてくるということは、こちらでも大きな音を立てれば広間の人間に聞こえてしまうかもしれない。
 目線の下にグレンの髪が見える。それが自分の乳房に顔を埋めていると思うと、羞恥のあまり体がわなないた。
 男は左手で反対の乳房を弄んでいる。重みのあるそれを持ち上げるように揉まれ、指で肋骨の上を撫でられると、ぞくぞくするような快感が脳天まで突き抜けた。再び声を上げそうになるのを、必死で堪える。
 左の乳房からは、舌で舐め回すグレンの唾液の音がぺちゃぺちゃと聞こえる。わざと音を立てているのだろうと分かっていても、耳に流れ込む卑猥な音に、さらに顔に血が上る。自分で分かるほどに息が荒い。
 つい視線を下げてそちらを見ると、柔肌に舌を這わせていたグレンと目が合った。レジーナを弄びながら、観察していたのだ。彼女は表れているだろう快楽を見せまいと、顔を逸らした。
「こっち見ろ、レジーナ」
 名前を呼ばれて、体がびくりと震える。彼女は顔を背けたまま首を振った。
 再びドレスが大きく捲り上げられた。レジーナは身を竦める。下着を穿いていない自分の秘部がさらされているのだと思うと、そしてそこが快楽に潤んでいるのが見えるのだと思うと、涙がにじむほど恥ずかしかった。閉じた脚の太もものあたりまでぬめってきているのを彼女は感じていた。
「脚を開け」
「いやよ」
 思わず掠れた声でそう答えると、グレンの手が強引に片脚の太ももを掴んで軽く持ち上げた。体がぐらつき、レジーナは完全に背を幹に預ける。背中に伝わる樹皮は、ざらざらとして湿っていた。
 男の手が彼女の脚の間に入り込む。入り口を撫でてグレンは囁いた。
「お、べちょべちょじゃないか。困った奥方様だな」
「やめて……言わないで」
 滅多に出さない、哀願するような自分の声にさえ、彼女は欲情した。頭の中が熱を帯び、下半身がだらしなく緩んでいる。
 グレンはまるでかしずくように、彼女の前に膝をつくと裾の長いドレスの下に体ごと潜り込んだ。
「やっ……なにしてるの!」
 あまりのことに声を上げるが、スカートの下のグレンは何も言わない。脚がさらに開かれ、間にグレンの体が納まったのが分かる。
 見えない。見えないが、今自分がどんなに恥ずかしい姿か、考えただけで顔から火が出そうだ。
 脚の間、濡れそぼった部分に、さらにぬるぬるとした生暖かいものが押し付けられた。そのままそれが辺りを這い回る。
「ああっ」
 その正体に思い当たると同時に、劣情に満ちた声が喉からほとばしった。慌てて両手で自分の口を塞ぐ。だが指の隙間から湿った吐息が漏れ続けた。
 先ほどは自分の乳房を舐めていた舌が、今度は性器を攻めている。裂け目に沿って何度か往復したそれは、その端、陰核の部分を振るわせるように舐めた。突き刺されるような、尿意に似た鋭い悦楽が走りぬけ、彼女は背を反らした。左手を背後の幹に突いて声を堪える。口を塞いだ右手が自分の唾液に濡れた。
 レジーナはそこを愛撫されたことが無かった。叩かれるように舌で舐められ、唇が触れて軽く吸われると、今まで知らなかった快感に体が小刻みに震え始め、噛み締めた歯の間から、塞いだ右手の隙間から声が漏れてしまう。
「はっ……あ……ああ……!」
 喉を反らせて声を上げたレジーナの目に、夜空を歪ませて光を放つ朧月が映る。月が霞んでいる。自分の視界も。意識も。

 不意に脚に冷気を感じた。レジーナの両脚の間に潜り込んだまま、グレンが再びドレスをたくし上げたのだ。
 潤んだような薄明るい月明かりに、自分が纏う淡い色の綿のドレスが青く照らし出されている。たっぷりとした布の下に覗く、他人の──男の暗い色の髪を信じられないような思いで目にした。せめて脚を閉じようとしても、グレンの体が邪魔でそれもかなわない。逆に脚に力を込めるほど、体の中心の肉が引き攣れて、こすれて、愛液が溢れ出してくる。
 その源に柔らかい舌がそっと侵入してくる。普段は固く閉じている入り口は、粘液を垂れ流しながらとろけるように開いているのだろう。今まで夫の為だけにそうしてきたそこが、他の男を受け入れる為に。
 庭に呼び出された時から、予感はあった。いや、応接間で接見した時から。もっと前、降伏を決めた時から、自分がこの男に抱かれるかもしれないという覚悟はしていた。それは苦痛と嫌悪に満ちていて、彼女は領民と遠くで戦火を交える夫の為に、それに耐えなければならないはずだった。そして今、レジーナは耐えている。でも何に。
 ちゅるちゅるという卑猥な音が湿った夜の空気に吸い込まれる。その度にグレンの頭がわずかに揺れ、少しくせのある髪が彼女の腿をくすぐった。男の荒く、熱い吐息が直接体の芯を覆う。形としては仁王立ちになった自分が、膝をついた男を服従させているのに、意識も肉体も自分が隷属されている。
「うぅっ……ふ……」
 考えるだけで顔が熱くなり、右手で塞いだままの口から嗚咽のような声が漏れる。膝が震えた。
「可愛いとこあるじゃないか、レジーナ」
 秘唇から顔を離し、グレンは女城主を見上げた。彼女の脚は太ももと陰毛まで愛液に濡れ、淡い月光を照り返している。目が合うとレジーナは羞恥の為に顔を背けて歯を食いしばった。
 彼はレジーナの左の太ももに手をかけると、ぐっと持ち上げた。
「あっ……いや!」
 彼女があげる悲鳴はどこまでも甘い。声は媚びてまとわりつくだけで、本当に止めて欲しいとは露ほどに思っていないだろう。レジーナの体を支える右足ががくがくと震えた。
 今まで顔を埋めていた秘められた場所が、グレンの目に飛び込んできた。夜の薄明かりでは色まで分からないが、裂け目から覗く内部は濡れそぼり、蠢いている。まるで違う生き物を内部に飼っているようだ。昔、自分の男性自身を差して同じことを言っていた女がいたのを思い出した。
「昔は想像もしなかったな、お前が俺の前でこんな犬みたいな格好するなんて。ねえ?」
 左脚を持ち上げたまま、グレンはそこに指を這わせた。温かく、ぬめっている。入り口に触れただけで溶けてしまいそうだ。
 彼はそこから指を離し、片手でベルトを外した。ズボンの前を落として、下着の紐を解きながら話続ける。高ぶる情欲のせいで声が上ずり、早口になった。
「知ってた? 一緒に仕事してた時は、よくオカズにさせてもらってたんだよ。昔っからかわいかったもんな、お前。夜営の時に、寝てる間にこっそりお尻触ったりしてさ、それを想像しながら、離れた場所で一人で抜いたりして……若かったなあ」
「やめてよ、やめて……変なこと言わないで」
 レジーナは首を振って言ったが、もう語尾がはっきりしなかった。口の中に溜まった唾液が溢れ出して、塞いだ右手を濡らした。右足には力が入らず、木の幹に預けた背中がずり落ちた。もう立っていられない。
 かがんでいたグレンが身を起こして、レジーナの体も起こすように彼女の左脚を右手で抱え直す。
「ほら、しゃんと立て、メス犬」
 今まで誰にも投げつけられたことのない罵倒に、頭を殴られたような屈辱を覚えた。軽いめまいすらする。
 次の瞬間、開かれた脚の間に激痛が走った。
 そこに、身につけていたものをずり下げ、剥き出しにされたグレンの男性自身が突き刺さっているのが見える。中を押し広げられる痛みに、彼女は僅かに呻きを漏らした。
 
 夫を持つ身のレジーナはもちろん処女では無いが、彼が出征する前から、二人の間に肉体の交渉は途絶えがちになっていた。
 愛情が冷めていた訳では決してない。高潔で信仰厚い夫は、元々女性にも興味が薄く、性欲も淡白だった。それはレジーナも同じで、夫のそうしたところを不満に思ったことはない。むしろそれも夫の魅力の一つだった。それでも若い夫婦は、結婚したばかりの頃は情熱的に体を重ねたが、半年もすると互いに寄り添って眠るだけで満足するようになった。
 跡継ぎ。やがて二人が肌を合わせるのは、その目的の為だけとなった。二人の関係が冷えたのではなく、性的な関係を超えた、精神的なところで二人は結びついていた。少なくともレジーナはそう思う。夫の側にいて、触れ合うと心が安らいだ。その安らぎを満たすには、口づけと抱擁だけで十分で、情欲を伴った愛撫や交合など必要なかった。
 夫は彼女に取って、最も大切な片割れで、父であり、兄弟であり、親友だった。時には信仰薄い彼女に取って、神にも代わるような存在だった。いつしか彼に欲情するのは、まるで家族や聖人の彫刻に対してそうするような、ひび割れた背徳感、罪悪感を伴うようになった。

 もう一年もの間、レジーナの肉体は男性を迎え入れたことが無かった。狭まった入り口が軋むように痛み、頭の奥で痺れる。
 裂ける。この男に引き裂かれてしまう。
「いたい……!」
 一言も声をあげたくなかったが、片足を持ち上げられた体勢は痛みが増した。この状態で動かされれば、体が壊れてしまう。そんな恐怖にかられて、レジーナは思わずグレンに訴えかけた。
「嘘つくな」
 そう応えたものの、グレンはそれが嘘ではないだろうと思った。ちょっとやそっとのことでは悲鳴をあげるような女ではないはずだ。固く膨れ上がった彼自身を差し入れたレジーナの中はぬるぬると温かく、えもいわれぬ快感が腰から背筋に伝わる。愛撫に潤みきったその入り口は確かに男を迎える為にゆるく開いていたが、内部は思ったよりきつい。
「……まさか、処女のままってことは無いよな」
 もしやと期待を込めて、乱れた息の下から尋ねると、レジーナは首を振った。
 そうだろう。いくら何でもそんな奇跡は無いか。
 内心、グレンは肩を落とした。処女を面倒がる男も多いが、彼は初物に目が無かった。自分以外の男が触れたことのない体に触れ、その中を自分の肉体をもって突き刺す。ちゃちな小競り合いでの勝利などよりも、遥かにグレンの征服欲を満足させた。
 処女膜が強固すぎて入らない、旦那が不能、度を越えた潔癖症などの理由で、もしやレジーナも人妻にして処女ではないか、などと淡い希望を抱いたが、さすがにそううまい話は無いようだ。
 だがそれなら遠慮する必要も無い。
 グレンはまとわりつく柔らかい肉に向かって腰を突き上げた。
「う……」
 ひりつくような激痛がさらにレジーナを襲った。食いしばった歯の間から、小さな呻きが漏れる。先ほどまで快楽のあまり反れていた背が、痛みに耐える為に丸くなる。
 二度、三度と体が突き上げられる度に、体の芯を壊されるような痛みが新たに襲ってくる。体が揺れ、剥き出しの背中が、背後の樹皮にこすれた。だが、これ以上苦痛の声も快楽の声も聞かせたくない。自分の意志を無視して蹂躙するグレンに、せめて抵抗してやりたかった。
「レジーナ」
 名前を呼ばれる。右手で彼女の脚を持ち上げ、男性自身で彼女を内側から貫いて支えながら、グレンは左手でレジーナの頬に触れた。
「痛いか? ……可哀想に。旦那とはご無沙汰だったのか?」
 侮辱的な言葉が穏やかな低い声で囁かれる。
「大丈夫だよ、レジーナ。すぐに気持ち良くなる」
 下から揺さぶる荒々しさとは裏腹に、頬を撫でる手は優しい。愛されているのではないかと錯覚するほどに。
 喉の奥から嗚咽のようなかたまりがこみ上げる。声にしてはならないとそれを飲み込むと、涙が溢れた。
 夫が不在にしてから、レジーナはよく働いた。元々頭もよく、人並みの野心もある。女城主として夫の代わりに表舞台で辣腕を振るい、家臣と領民の賞賛を受けたのは、楽しくさえあった。
 でもずっと張り詰めていたのだ。常に先頭に立ち、考え抜いて指示を飛ばさなければならない。レジーナが頼る人間はいない。
 自分はひどく疲れていたのだ。今彼女はそう気づいた。侵略してきた人間に完全に籠絡されて、やっと頂点から解放された。固く鎧っていた心が解けていく。流れるのは安堵の涙なのかもしれない。
 
 高く差し上げていたレジーナの脚を、グレンが少し落とした。広げられていた部分が狭まり、ほんの少し痛みが減る。
 頬に触れていた手が下に滑り、乳房を包んだ。夜の冷気にさらされて冷えていた部分に触れる手が温かい。頬に触れていた時とは別人のような荒々しさで、乳房が揉みしだかれた。
 結合したまま、グレンはレジーナに口づけた。揺さぶられて、触れ合う唇もぶれる。唾液が互いの顔に散った。
 男の舌が唇を割って入ってくる。食いしばっていた歯が解けた。男が腰を突き上げる動きも緩やかになる。
「は……う……」
 開いた口から泣き声のような、切ない響きの吐息がこぼれる。もうだめだ。一度解けた糸は簡単には結び直せない。
 蠢く舌で舌を撫でられ、ぞくぞくする快感が再び背中から持ち上がった。唾液とともにグレンの荒い息がレジーナの口に流れ込む。吐息が交錯する。何もかも。今、何もかもこの男と混ざり合っている。
 体の奥、己の中心で感じる痛みが甘い。ひりつくような痛みは先ほどと同じなのに、体内で自身と男が混ざり合っていると思うと、そこから熱が溢れ、体が溶け出すような気がした。
「あ……あ……」
 端から唾液を垂らしながら漏れる声。愉悦に満ちて震え、意味のある言葉にならない。
 行われている行為は変わらない。変わったのは私の頭の中だ。視界の色づき方、触れる肌の意味、体内に入り込んだ他人の体。全てが変わる。レジーナは世界が反転してしまったかのような錯覚を覚えた。倒錯的だった。
「レジーナ」
 唇を外し、自分の名を囁くグレンと目が合う。再び彼は激しく腰を突き上げ始めた。
「ああっ……はあっ」
 男の腰の動きに合わせて、悦楽が駆け上ってくる。堪えきれずにレジーナは悲鳴のような声をあげた。まだ狭まったまま広がりきっていない体内で、グレンがこすれる痛みすらもう甘い。
「あっあっあっ……」
 膣内に入り込んだグレンが奥へと突き進む度に、嬌声が喉から突き上がる。口を塞いだ手が震えた。膝がしなるほどの激しい動きに、背中まで伸ばした髪が乱れて、汗ばんだ肩や胸にまとわりついた。
「レジーナ、気持ちいいか?」
 息を弾ませ、腰を振りながら尋ねるグレンにレジーナは答えなかった。顔に手をかけられ、強引に彼の方を向けさせられる。
「言えよ。言わなきゃもう抜くぞ」
「待って……待って」
 揺さぶられながら、男の肩に両手ですがりつく。微かに汗の香りが鼻に入り込んだ。グレンの髪も汗ばみ、額に張り付いている。自分と同じく、顔は赤らみ、瞳が潤んでいた。
「グレン」
 名前を呼ぶ。呼び止める為でなく、注意を引くためでない、すぐ目の前で自分を見つめている人間の名前を呼ぶことに意味は無い。そこに意味や役目は無く、ただ溢れる感情だけがある。
 グレンもまた、上ずってこの上なく甘い、レジーナが彼の名を呼ぶ声に、頭が痺れるような気がした。疲れはいたが、残りの力を振り絞り、より強く腰を突き上げ、自分の楔を彼女の中に打ちつけた。合わせ目からぐしゅぐしゅという湿った音が響く。レジーナの体内からあふれ出した愛液は彼の男性器官の根本にまとわりつき、陰毛まで濡らしている。
「あ、あああっ! はぁっ! グレン……気持ちいい。気持ちいいっ」
 脳が灼熱する快楽にさらに涙があふれてくる。これまでの人生であげたことが無いような、淫らな自らの声にレジーナは酔った。
「レジーナ……」
 自分と同様、グレンの声も愉悦に震えて掠れている。全く同じものを、この瞬間ふたりで分け合っている。嬌声をあげ、突き上げられながら、背を反らしてレジーナはそれを味わった。潤む視界に月が再び飛び込んでくる。もうぶれて、霞んでその形も定かではない。湿って冷たいその光だけが静かに瞳に差し込む。グレンが呻き、動きを止めた。からだの入り口で、彼自身が小さく痙攣しているのが分かった。


 もたれていた木の幹に手を突き、レジーナは荒い息を整えようとした。脚の間から溢れた液体が太ももを伝うのが分かる。気持ち悪い。体全体がたまらなくだるく、ドレスの胸元を引き上げて、服装の乱れを直すのが精一杯だった。
 グレンの方はと言えば、レジーナの体内から抜き出した性器を懐から出した布で悠々とぬぐっている。それを目にした時、彼女の頭に血が昇った。先刻、彼がレジーナから取り上げた彼女の下着だった。
「なに考えてんのよ、変質者! いつまでそんなもの持ってるのよ」
 レジーナはグレンにつかみかかって、それを取り上げようとした。思わぬ行動だったのだろうか、グレンの体がぐらつく。
「変質者ぁ? ほんとに口悪いな、お前。つい今まで散々……」
 グレンは何とか体勢を立て直し、自分の股間を拭った彼女の下着を高く差し上げた。レジーナの顔がますます紅潮する。
「うるさい! 捨てちゃってよ、そんなの」
「そういうわけにもいかんでしょ。朝起きて大事な庭にべとべとのパンツが落ちてたら、庭師のじーさん目回すぞ」
「……じゃあ、返してよ」
 怒りと恥ずかしさのあまり震える声でレジーナが言うと、グレンは面白そうに笑った。
「いいから、いいから。拭いてあげるから股出して」
「寄らないでよ!」
 ドレスの裾に手をかけるグレンの手を思わず振り払うと、彼は渋面になる。
「なんだよ、人が親切に言ってやってんのに……」
「余計なお世話よ」
 レジーナはかがんで、草の上に落ちていたグレンのマントを拾い上げた。随分と汚れてしまっているのは、抱き合っている最中にレジーナが何度も踏みつけたからだ。申し訳ないというより、そんなに乱れていた自分が今さらながら恥ずかしい。
 軽く泥を払って渡してやると、受け取りながらグレンは口を開いた。
「一張羅だったんだけどな……まあ、いいや。戻ろうか」
 用は済んだということらしい。彼女を庭に誘い出した時に、部下たちに告げた『これからの話し合い』とやらはどうなったのだろう。レジーナの顔に皮肉な笑みが浮かぶ。
「先に戻ってて。後で帰る。──もう気は済んだでしょ」
 立ち上がるとまだ膝が震えて、腰に力が入らない。自分で情けない。レジーナはそれを隠そうと、静かに告げて、再び木にもたれた。
「はあ? 気が済んだ? 誰の?」足元に視線を落とすレジーナの顔をグレンが覗き込んでくる。その声につい今までの、作り上げたような親しさは無い。目は笑っていなかった。「気が済んだのはお前だけだろ。まだ聞きたいこともあるんだ。ついてこい」
 再び手を掴まれ、強引について歩かされる。足がもつれて前につんのめった彼女に気づき、グレンが振り返って歩調を落とした。
「足腰弱ったんじゃないの? あれぐらいでガタガタか?」
 嘲笑するグレンに言い返せない。それは返す言葉が無いのではなく、その一言で遠くに去ったと思った劣情が、一瞬で下半身から湧いてきたからだ。体を下から突き上げられる、生々しい感触が蘇り、錯覚ではなく下腹部が震えた。レジーナの手を掴む、彼の皮の厚い大きな手が何度素肌を撫で、中に入り込んだだろう。
 ほんの一時の交合で、肉体の隅々に目の前の男の記憶を植えつけられてしまった。肌が離れても、刻み付けられた快楽の記憶が消えない。

 子供のようにグレンに手を引かれ、震える足で広間に戻りながら、レジーナは目を閉じた。無心になり、掻き立てられる体の熱を冷まそうとした。ひんやりした夜気はしかし湿っていて、意識にまでまとわりつくようだ。
 彼女の手を掴むグレンの手。庭に来た時はただの他人の手だった。今はその手が、自分に与えた快楽を反芻させる。
 目を閉じてもおぼろげな月明かりを瞼の裏に感じた。  
 
は~、やっと突入(文字通り……)できました。
どうにか一段落です。
まどろっこしいですが、まだ続きますので、更新したらまた目を通していただけると嬉しいです。
web拍手

作者ブログ『椰子の実ライブラリ』

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