警告
この作品は<R-18>です。
18歳未満の方は
移動してください。
前話がイマイチだったので、予定より早めに上げました。
侍女と違って、奥様は悩み方も武闘派です。
※6/15付けで掲載した物より、若干加筆しました。
第二章 8.蜜を足す
叩きつけた切っ先がたやすく弾き返される。反動を右手で押し込めて刃を返し、レジーナはすかさず反対側から切り込んだ。しかしニコラスも敏捷に剣を構え直し、その一撃を受け止める。
剣を再び強烈に弾かれ、右腕に僅かに痺れが走った。ニコラスはその隙を逃さず、太刀筋を縫うように剣を突き込んでくる。
木剣はレジーナの喉に触れる寸前で、ぴたりと動きを止めた。
また負けた。
ここ五日ほど、ニコラスとは毎日のように勝負をしているが、勝てたのは一度きりだ。それもニコラスが何人もの演習に付き合った後で、疲れ切っていた時の話だった。
「大丈夫ですか?」
勝負がついて、木剣を部下に預けてしまうと、ニコラスはそれまでとは別人のように穏やかな顔つきになり、レジーナが握ったままの木剣を丁寧に取り上げた。
息を弾ませながら、レジーナはただ頷く。呼吸が乱れて声が出なかった。
女に本気を出すような男に見えないと思ったが、間違いであった。剣を握って相手と対峙すると、目の光が変わる類の人間だ。普段あれだけ丁重に接しているレジーナに対しても、剣の勝負となるとニコラスは容赦が無かった。グレンの方が遥かに上手に手を抜いている。
だがニコラスの気迫に引っ張られるように、レジーナの体にも気力が漲った。どうしてもこの男にもう一度勝ちたい。
午前中と午後の早い内に普段の仕事を片付けると、レジーナは侍女を連れて兵舎の訓練場に通った。彼らは午前は部隊全体の演習、午後は各隊に分かれての訓練を執り行っている。直属の大隊を持たないニコラスは、比較的時間に余裕があるらしく、レジーナの相手をよくしてくれていた。
彼以外の兵や士官とも、剣を合わせてみたこともある。若手の兵や小隊長なら、レジーナでも勝てるが、大隊を率いている士官が相手だと、簡単には勝てなかった。やはりこの軍は実力主義だ。武芸への習熟が、そのまま将の器になるわけではないが、強くなければ、周囲の兵がついてはこない。
侍女たちも兵と剣の手合わせをしてみたが、燦々たる結果であった。以来、数人の負けず嫌いの侍女たちは、レジーナについてきて、大公軍の兵に勝とうと、基礎訓練に混ぜてもらっている。
そんな副伯夫人と侍女たちを、兵士たちは面白そうに眺めた。所詮、女の遊びだと彼らは思っていたが、彼女たちはめげずに、軍と同じ基礎訓練を地味にこなしている。
公都にも女性の兵はいるが、貴族や騎士の子女で構成される、独特の集団だ。主に身分の高い婦人の護衛についている。元傭兵が多く混ざるグレンの軍の男たちは、彼女たちをお飾りだと密かに揶揄していた。嫁ぎ先の無い娘たちが、珍しい『女の兵』として、貴族たちや他国から脚光を浴びる。革新的な発想を好む大公の趣向のひとつで、実用的な価値は皆無だ。
彼女たちに比べれば、この城主の奥方と侍女たちは、もっと地道に鍛錬を積んでいるように見えた。
ことに副伯夫人は、疲労の度合いが違ったとはいえ、筆頭士官のニコラスから一本取っている。身のこなし、戦いの気迫、どれも男の兵にもひけを取らない。
称賛、揶揄、好奇心。兵士たちが、夫人と侍女に抱く感情は様々だったが、彼らは関心をもって、毎日訓練に通ってくる女たちを迎えた。髪をまとめ、動きやすい服で男装してやってくる彼女たちに、下卑た邪心を抱く者は、それほど多くはなかった。
ニコラスとの勝負を終えた後は、レジーナは息を整えながら、軍の訓練を眺めていた。立ち回りの時間は短いが、体力を限界まで使う。ニコラスが相手となると、気力も大きく消耗した。
レジーナの目の前では、侍女たちが、小隊に混ざって、腕立て伏せに精を出している。途中でばてる侍女もいたが、汗を滴らせて、男たちについていく侍女もいる。自分の部下ながら、感心である。
「おらあっ、へたれんな! 腕立てぐらいでヒーヒー言ってるんじゃねえよ。気合い入れろ、コラ!」
訓練に勤しむ兵たちの上から、鼓膜を突き破るような司令官の怒声が響いた。侍女の中には驚いて動きを止める者もいる。
「へい!」
兵たちが一斉に返答する。はい、と言っているのかもしれないが、レジーナには「へい」と聞こえる。
「……どこの海賊の訓練かと思ったわよ。もう少し上品な気合いの入れ方は無いの?」
近づいてくるグレンに眉を顰めて見せると、彼は唇を歪めて笑った。
「海賊が訓練なんかすんのか? お前、見たことあるの?」
「たとえよ。揚げ足取らないでよ」
グレンは何も言わずに笑い声だけ小さく漏らすと、レジーナの隣に腰掛けた。今レジーナが座っているのは、兵舎の入り口、訓練場の正面にいつも用意されている、木造りの長椅子である。兵士たちの訓練が見渡せる場所にあるので、大抵司令官が座っている。もっとも、動きが悪い隊があれば、彼らを一喝しに近づいていくので、グレンがここにおとなしく座っている時間は、それほど長くはなかった。
グレンとも、あれから何度か手合わせをしているが、当然勝てたことはない。ニコラスと違って、見るからに手を抜かれているのが悔しかった。
「ニコラスには勝てたか?」
「勝てるわけないでしょ。今日も負けたわ」
「情けねーなー。あれでヤツは手ぇ抜いてるぜ。巨乳の女豹なら、せめて本気出させろよ」
「……その呼び方やめて」
苦々しくレジーナが言った時、傾きかけた日差しの中に、早足で近づいてくる長身の人影が浮かんだ。飲み物を取りに行ったニコラスが戻ってきたのかと思ったが、彼ではなかった。先日、レジーナが役人たちを連れて視察に訪れた時、門の前で問答になった黒髪の若い士官だ。
彼はレジーナに一瞥もくれず、グレンの前に来ると、膝を折って屈んだ。
「閣下、それでは私どもは本日の鍛錬は切り上げまして、明日に備えます」
「ああ、そうしろ。早めに作業が進むよう、ばりばり働かせろよ」
鷹揚に頷くグレンに対し、生真面目な士官は深く頭を下げた。
「心得ております。ご期待に答えられるよう、一同で邁進します」
明日から、山裾の伯爵領に下る間道を作る工事が始まる。このひと月の間、グレンは軍で抱えている職人たちを山に派遣して、工事の計画を立てさせていたらしい。今の話を聞く限り、このガブリエルが工事の指揮を取るのだろう。
傭兵であったレジーナには想像がつかないが、グレンが引き連れている軍だけでなく、大公軍のほとんどは、兵たちが土木建築の作業も行うらしい。辺境に遠征する時などは、兵たちが自ら街道を作り、道を切り開いて軍の通り道を作る。かつて古代帝国の兵たちもそうしていたと、昔夫から聞いたことがあった。
グレンたちは、半数が山に入って間道の工事を進め、残り半分はここで訓練を続ける。一定期間を置いて、交替するらしい。間道の工事にどのくらいかかるのかは分からないが、グレンは一年ほどと言っていた。一年、山で工事を続けるのは苦痛だろうが、交替で工事を行うなら、兵士の体力も士気も温存できる。二千人もの軍を送り込んできたのは、この交替作業のためだったのだ。
「頼むぞ」
もう一度頷いたグレンは、レジーナにちらりと視線を向けた。
「そうだ、ガブリエル。お前、夫人と手合わせしたことはあるか? 工事に出る前に、ひと勝負やってみないか?」
ガブリエルは顔を上げ、やっとレジーナを見た。その表情は興味も嫌悪も表していない。彼は再び頭を垂れ、上官に告げた。
「恐れながら、グレン様、私は鍛錬とはいえ、ご婦人と剣を合わせることなどできません」
「そう堅苦しく考えるなよ。剣の勝負の時の夫人は、女性だと思わなくていい。獣だと思え」
お前に獣呼ばわりされたくない。レジーナは憮然としたが、士官の前なので、言い返すのは我慢した。
「申し訳ございませんが、やはりできません」
ガブリエルは頑なだった。グレンは興を削がれたように溜め息をつく。
「いい勝負になると思うんだけどな。まあ、いい。じゃあ、隊を連れてさっさと寝ろ。明日は早いんだろ」
「夜明けには出発します。それでは、失礼致します」
青年士官は、二人に礼を取ると、踵を返して早足で去っていった。
相変わらず、女嫌いを隠そうともしないガブリエルの態度は、不愉快ではあった。しかし、彼が工事の指揮を執るなら、万一、集落の領民が山で軍隊と鉢合わせになったとしても、彼らに危害を加えるようなことは無いような気がした。
「あー、これで仕事は進むし、男どもが半分減って、兵舎が空くなあ」
あんなに真面目な士官が、どうしてこんなに不真面目な司令官の下に就いているのか、レジーナは不思議に思いながら、へらへら笑っているグレンを横目で見た。グレン自身は、工事の指揮は執らず、ここに腰を据えるらしい。一番いなくなって欲しい人間に居座られて、非常にはた迷惑であった。
その夜、レジーナは久しぶりにグレンと夕食を取ることになった。グレンが言い出したのだ。
旅から戻った後、一度朝食を共にした覚えがあるが、夕食は旅立ちの前日以来だ。
レジーナは夫が出征してからは、普段、一人で夕食を食べている。いかに親しくても、侍女や臣下たちとは、食事を共に取ってはいけないと、夫から教えられていた。市井生まれのレジーナからしてみれば、奇妙な習慣に見えたが、それは領主と臣下たちを分ける、最も大切なけじめだという。
そうはいっても、時折一人で食事をするのが淋しくはなる。レジーナは特に一人でいることが苦痛にはならないが、さすがに毎日では、いかに食事がおいしかろうとも、物悲しくなることもある。給仕に口止めさせた上で、こっそりシェリルを同席させることも稀にあった。彼女はレジーナにとって、部下である以前に友人と呼べたからだ。
グレンは知り合いではあっても、友人とはとても呼べない。彼に対して、さほど気は遣わなくて済むのは確かだが、あいだに抱えているものが重苦しい。普段は二人ともそこから目を背けているが、無論のこと、イブの死を忘れることは、レジーナにはできなかった。
そろそろ旬が終わるアスパラガスと、今日取れた兎の煮込み料理に舌鼓を打って味わいながら、二人は主に間道の工事について会話を交わした。
グレンは表面上はレジーナを警戒する様子もなく、工事の場所や計画など、大雑把なことを語っている。彼女が伯爵夫人と組んで、それを阻止しようとしているとは考えていないように見える。
実際、レジーナは決心がついていない。エドワードと連絡を取り、伯爵夫人と共にグレンたちを追い出すのか、あるいはこのまま大公の軍門に下り、主のいない伯爵領が蹂躙されるのを、傍観することに徹するか。どちらも決めかねていたが、時は流れ、大公軍は動き出している。黙っていれば、自然後者の流れに乗ることになる。
自分ひとりの身なら、答えを出すのは簡単だ。だが背負っているものがある。主のいない、領民たち。その主の妻であるレジーナが、しっかり導いていかなければならない。
伯爵領を侵略しようという、大公の行為は正義にもとるが、それを留めるために、領民全員の生活を脅かし、死の危険へと放り込ませるだけの価値はあるのだろうか。
数だけなら、この副伯領の領民より多い、二千人の兵士を預かるグレンを見つめた。目の前に食材があれば、まず片付けずにはいられない彼は、白葡萄酒を使ったソースで煮込んだ、香草入りの兎料理を、一心不乱に食している。その様子を見ながら、他人を束ねるという点では、同じ立場だと思うと、僅かに親しみが沸いた。
料理が終わると、給仕が乾燥させた果物と、蜂蜜、新しい葡萄酒を持ってくる。
そういえば焼き菓子を食べたがっていたニコラスが、最近厨房に出入りして、料理女たちに焼き菓子の作り方を指南しているらしい。彼に喜んで欲しいと、料理女たちが張り切っていると執事から聞いたことがあるので、いずれ食後に焼き菓子が出てくるようになるかもしれない。
「そういや、お前のダンナはどうしてるんだ? 手紙か何か来たか?」
間道の工事の話題が途切れた後、どきりとするようなことをグレンが聞いてきた。
手紙は来た。一度きり。
届けられた手紙は、すべてグレンたちに取り上げられてしまう。だから大公軍に見つからないように、シェリルが鳥を使って麓の町から届けてくれたのだ。夫の無事を知り、レジーナは涙を流した。イブが死んだのはその晩のことだ。
それ以来、夫からの便りはない。
「分からないわ」
レジーナは首を振った。グレンが気づくはずはない。手紙は、今彼女が使っている客室に、大切にしまってある。
何を言われるかとひやひやしたが、グレンはふうんと相槌を打ったきり、話を途切れさせた。既にその話題に興味を失っているように見える。
レジーナは間を繋ぐように、手を伸ばして、乾燥された桃をつまんだ。まだ熟していないせいか、かなり酸味がある。彼女は顔を顰めると、手の中に残っている半分を、一緒に出された蜂蜜に浸した。蜂蜜と一緒に口に含むと、ようやく甘みが広がる。
彼女の様子を見て、グレンも果物に手を伸ばした。
「なんだこれ、桃? まだ早いんじゃね?」
「うちの果樹園のは早めに実るのよ。でも確かにまだ酸っぱいから、蜂蜜つけた方がいいわよ」
グレンはレジーナの勧めに従って、乾いた桃の実に、蜂蜜を乗せたが、口に入れた瞬間、やや眉を寄せた。
「……なんか、べたべたするなあ」
「蜂蜜だもの」
見かけによらず、甘い物が好きなレジーナは、乾いた酸っぱい桃の実に、小鉢から棒で掬った蜂蜜をたっぷりのせては、頬張った。
胸焼けでも起こしたような顔で、その様子を見ていたグレンは、椅子を立つと、食堂の扉を開けて給仕を呼んだ。慌ててやってきた彼に、濡れた布を持ってくるように命じている。
席に戻ったグレンは、給仕からもらった布で、手を拭っていた。
「あんた、甘い物嫌いなの?」
「嫌いじゃねえけど、お前みたいにむしゃむしゃ食べられないよ。食いすぎるとぶくぶくになるぞ」
「食べ過ぎないようにはしてるわよ」
そう言いながら、レジーナは最後の一つを口に放り込んだ後、指先に付いた蜂蜜を未練がましく舐めた。領内の農家が作っている蜂蜜は、舌を焼くように甘い。
突然肩を掴まれ、テーブル越しに体を引き寄せられた。腰が椅子から浮いて、腹にテーブルの縁が当たる。グレンの顔が近づいたと思う間もなく、まだ蜂蜜でべとついた唇に彼の唇が触れる。
身を離そうとしたが、両肩を掴まれて、逆にテーブルの上に引き上げられるように、唇を重ねたまま体を引っ張られた。
もがいた足が虚しく宙を蹴る。押し退けようとした腕ごと、椅子から立ち上がったグレンに抱え込まれた。押し付けられた唇が歪む。唇を割って舌が入ってきた。レジーナはそれに力を込めて歯を立ててやった。
「いって!」
舌打ちと共に、グレンはやっと顔を離した。だがその腕は少しも緩まず、体を離すことができない。
「ふざけないでよ」
動揺を押し隠して、レジーナは彼を睨み上げた。イブの一件以来、時折つまらない冗談を言うことはあっても、グレンは彼女を寝室に誘ったり、くちづけをしたりすることはなかった。それがあるべき形で、当然なのだ。
「お前こそ、ふざけんな。いてえなあ」
吐き捨てるグレンの声が一段低くなった。気後れしないよう、レジーナは腹に力を込めて言い返す。
「手加減してやったのよ。さっさと離してよ」
「懲りない女だな」
冷笑を浮かべたグレンは、テーブルの上にすっかり乗りあがったレジーナの体を、抱えたまま仰向けに押し倒した。視界がぐるりと動き、食堂の天井が目に入る。初めて寝室で彼と交わった時のことを思い出した。
「やめてよ、変質者。こんなとこで……」
腕と、貴婦人らしからぬ脚まで使い、レジーナはグレンを押し退けようとしたが、怪我が全快したらしい彼は、傷があるはずの脇腹を押しても平然としている。
「場所が違えばいいのか? 寝室なら文句ない?」
捕まえられた山猫のように暴れる彼女の抵抗を巧みに封じながら、グレンはにやにやと笑っている。いいようにされているのが悔しい。レジーナは歯軋りする思いで、低い声を絞り出した。
「そういうことじゃない。侍女を殺した男と寝られるはずないじゃない」
「なんの話だ」
グレンの笑みと声が瞬時に凍った。
レジーナの背筋にも悪寒が走る。
レジーナがグレンを決して許せないように、グレンも瀕死の重傷を負わされたイブと、彼女の主人であるレジーナを許してはいないのだ。
互いに憎しみをぶつけ合う。それはレジーナとグレンの場合、殺しあうのも同じだ。お互いに背負うものがあって、簡単には命を賭けられない、投げ出せない。
だからイブの凶行は、無かったことにした。彼女の死と共に永遠に地の底に葬られた。
苦い思いで瞳を潤ませるレジーナに、グレンは表情を一変させて微笑みかけた。彼の眼光が緩むと、引き攣っていたレジーナの心も、柔らかく解放される。翻弄されているのが悔しかった。
男の手が服の胸元にかかった。勿論兵舎での訓練の後、レジーナは湯浴みをして着替えている。今は普段から着ている、裾の長い、綿の慎ましい服だ。
「ちょっと、待って」
性急な仕草で服の紐を解きにかかるグレンの腕を押さえて、レジーナは声を上げた。
「なんだよ」
舌打ち混じりに応じたグレンの表情に、先ほどの凍てついた怒りはもう無かったが、彼は手を止めなかった。起き上がろうとするレジーナの上体を肘で器用に封じながら、指先で紐を解いていく。
「こっ、こんなとこでやめてよ。すぐに給仕が片付けに入ってくるわよ」
「来ないよ。今日はもういいから、明日の朝まで入ってくるなって、さっき言っておいた」
一瞬、唖然とした。先ほど濡らした布を頼みながら、レジーナに聞こえないように、そんなことを命じていたのか。
「まあ、健全な少年なら、隣で聞き耳立ててるかもしれないけどな」
「冗談じゃないわよ。他の人間が入ってきたらどうするの」
「来ないって。前にもここでヤっただろ。平気、平気」
かつてこの小食堂の椅子で彼と抱き合ったことを思い出し、瞬時に頭に血が上った。
呑気に言いながら、グレンは紐を解いたレジーナの服を肩から滑らせる。レジーナはそれを必死に押さえようとした。
「離せって。破けるぞ」
「いやよ。やめなさい」
「やめない。じゃあ、寝室行くか? ここが嫌なんだろ」
体の奥からうっすらと痺れが這い登ってくる。嫌悪なのか、何かの期待なのか、よくは分からなかった。
「……分かったわよ」
胸に溢れ返った様々なものを抑えて呟く。グレンは再び顔を崩した。
「あ、そう。じゃあ、寝室行って、俺とやるんでいいんだな」
「いいわよ。どうせやめる気なんか無いんでしょ。さっさと動いてよ」
心の奥から甘い香りが漂う気がする。レジーナはそれを振り払うように、半ばすてばちできっぱりと言うと、転がされたテーブルから起き上がろうとした。
しかし再びグレンに押さえ込まれる。
「情緒が無いなあ。やっぱやめた。ここでやる」
「何が情緒よ、こんな食堂の方がよっぽど……」
「うるせえな、嫌がってる方が濡れるくせに」
低い笑いと共に吐かれた言葉に、かっと顔が熱くなる。
狼狽を見せまいと唇を震わせるレジーナの体を、グレンは簡単に反転させて、テーブルの上でうつ伏せにさせる。背中で両腕を合わせられ、しゅっという衣擦れの音がしたと思うと、手首に皮のベルトが巻きつく感触があった。
再び体を翻させられる。薄笑いを浮かべているグレンと視線がかち合った。
「こうやって縛られながら、やだやだっつってヤられてる方が好きなんだよな? だから結局こうなるの分かってて暴れてるんだろ」
「違うわよ」
憤然と言い返したが、グレンはレジーナの反応を面白がるように、苦笑のような笑い声を漏らし、腕を封じられたレジーナの服にもう一度手を伸ばす。彼女が否定したことなど、全く信じていないようだった。レジーナ自身も信じてはいない。
大きく胸元を広げられた服が肩からずり下ろされる。筋肉がうっすらとついた肩と、対称的にふっくらと豊かに盛り上がった、滑らかな乳房と桃色の乳首がむきだしになった。
初夏の日は長い。開け放した窓からは、黄昏色の光がまだ淡く差し込んでいる。窓と反対側の壁に備え付けられた燭台の明かりが、丁度食卓の辺り、レジーナの白い肌の上で交差した。
レジーナは羞恥に僅かに震える。それに合わせて豊かな乳房が微かに揺れた。
健気に見える乳房のその動きに一瞬目を細めた後、グレンは彼女の胸の膨らみを鷲づかみにした。言葉にできない柔らかさが、彼の掌の中で弾む。
食卓が大きめだとはいっても、家族用だ。レジーナの膝から下は、テーブルに乗り切らずに、だらりと下がっている。グレンは自分の膝で彼女の脚をどけるように開かせると、その間に入り込んだ。立ったまま、もう片方の手も伸ばし、両手でレジーナの乳房を握る。
胸をこね回すように揉まれると、彼女の体も僅かに揺れた。羞恥のあまりグレンの顔を見ることもできず、レジーナは目を閉じて歯を食いしばった。厚い掌の下で時折乳房の中心がこすられ、微かな、しかし鋭い刺激が突き刺さる。快楽を掬い取るまいとしても無駄だった。そこは徐々に固くなっていく。
贅肉の少ないレジーナの肢体の中で、乳房だけは豊かな実りを見せている。男の手の動きに従って、その柔肉もしなやかに形を変える。滲んできた汗でしっとりと湿った肌は、グレンの掌に吸い付くようだった。
レジーナがもがくように脚を動かしても、両脚の間に立っているグレンの体にぶつかるばかりだ。腕は動かせない。不自由な体勢で、解放されたいと動けば動くほど、体の中心が熱くなってくる。
グレンの手が胸から離れる。
目を閉じたレジーナの顔の横で、かたりと小さな音が持ち上がった。
「レジーナ」
名前を呼ぶ低い声は、命令に似ていた。
この城にいる人間で、彼女を呼び捨てにできるのは、夫がいない今、彼だけだ。反射的に目を開ける。
予想に反して、グレンは微笑んでいた。彼は手にした小鉢から小さな棒で蜂蜜を掬い取ると、レジーナの口元に伸ばした。ぽたぽたと甘い蜜が彼女の胸や首に滴り落ちる。
引き結んだレジーナの唇に、甘い香りを放つ蜂蜜が触れた。
「口開けろ。べとべとになるぞ。蜂蜜、好きなんだろ?」
何故か逆らえず、レジーナは唇を開いた。グレンがその上に差し出した棒から、絡んだ蜂蜜がゆるりと滴る。どこか淫靡な光景だった。荒い息が漏れる唇の中に注がれた蜜は、やはり焼けつくように濃密だ。
棒に絡めた蜂蜜が概ねレジーナの口の中に納まると、グレンは小鉢からもう一度蜂蜜を掬う。今度はその薄い琥珀色の粘ついた液体を、レジーナの乳房に落とし込んだ。蜜が多く絡まるように、先端に溝が刻まれた小さな棒で、乳首を撫でられる。
「あっ」
体を走り抜けた思わぬ強烈な刺激に、レジーナは小さな声を上げた。蜜にまみれた薄紅色の蕾は、さらに固く立ち上がっていく。
グレンはもう片方の乳房にも、蜂蜜を塗りつけた。甘い液体の匂い、べとつく感触がレジーナの腰の奥に届く気がする。唇を引き結んで声をこらえようとすると、増々息が乱れた。
抑えた溜め息をつき、無意識に腰を僅かにくねらせるレジーナを見下ろし、グレンは口元を緩ませる。彼は体を折って、再びレジーナの唇に舌を伸ばした。とろりと甘い、蜂蜜の混じった唾液に包まれる。今度は彼女も歯を立ててくるようなことはなく、グレンは容易にレジーナの舌を捕えた。
「んうっ……」
苦しげな溜め息がレジーナの口から漏れる。男に舌を絡めとられ、唇を吸われた。唾液と蜜の匂いが鼻腔の奥で混じり合う。
唇を離したグレンは、蜂蜜にまみれたレジーナの乳首に舌を這わせた。
「甘い。こうやって舐めると、結構うまいもんだな」
グレンの低い笑い声と共に、温かい吐息が肌を撫でる。恥辱が溢れて、レジーナは息を呑んだ。
彼はそのまま、音を立てて彼女の肌を舐め回した。生ぬるく柔らかい舌が、蜂蜜を舐め取ろうと、強く押しつけられる。白い肌、刺激されて濃く色づいた乳輪や、小さな石のように固く尖った乳首をグレンの舌と唇が這い回る。
「……く……う……」
目を瞑ったレジーナの唇から、時折こらえきれない微かな呻きが漏れた。
まるで獣か子供にいたぶられ、玩ばれてているようだ。レジーナの呼吸は一層苦しくなる。何かが体の奥からせり上がろうとしていた。
レジーナの肌に付着した蜂蜜をあらかた舐め取ると、グレンは今度は葡萄酒の入った酒壷を手に取った。
「口開けて」
顔に熱が上り、思考に霧がかかってくる。レジーナはぼんやりと、言われるまま口半開きだった口を、空気を欲しがるように、喘ぎながら開いた。
グレンは行儀悪く、酒壷から直接葡萄酒を口に含むと、もう一度レジーナにくちづけた。合わせた唇から、甘く、瑞々しい香りを放つ液体が注がれる。一瞬でレジーナは酩酊した。グレンが舌を蠢かせるたび、口の中で葡萄酒が濡れた音を立てる。寝転がったまま、レジーナは僅かに首を起こして、それを飲み下した。
「うまい?」
顔を離したグレンが、低く優しい声で問いかける。レジーナは何も考えずに頷いた。以前にも、この食堂で、彼の膝の上で同じようなことを訊かれたと思いながら。
「もっと飲むか?」
グレンはレジーナの額を撫でながら、軽く酒壷を掲げて見せた。レジーナは首を振った。今欲しいのは、そんなものではない。
「あっそ。いらないの」
眉を軽く上げたグレンは、片手でレジーナの服の裾を大きく捲り上げた。羞恥が一瞬、レジーナを覚醒させる。
「やめてよ」
グレンはそれには全く応えず、露わになった、レジーナの秘部を覆う小さな下着を軽く引っ張ると、その隙間から酒壷を傾けて、葡萄酒を流し込んだ。
「うっ、やっ……冷たい。やめて」
半ば朦朧としながらも、レジーナは脚を振って嫌悪を表した。体を起こそうとしたが、グレンに片手で押さえられる。
「おとなしくしてろよ。お前、おもらししたみたいだぞ」
下着の中に注ぎ込まれた果実の酒は、あっという間に小さな布を湿らせ、レジーナの脚の間や尻の辺りから漏れ出してくる。白い太ももを赤紫の液体が伝っていくのは、なんとも淫猥な眺めだった。月経の際の女も、こんな状態なのだろうかと彼は思った。
グレンはレジーナの下着を素早く剥ぎ取ると、さらに大きく脚を開かせる。瑞々しい果実の香りを放つ、薄い褐色の陰毛は、紫とのまだらに染まっている。同じように葡萄色の液体にまみれた秘唇を、そっと指先で押し開くと粘液質の音を立てて、内部から溢れた愛液が糸を引いた。
「やっぱりね。縛られるとびしょびしょになっちゃうんだな。仮にも貴婦人として、こんな性癖はどうなんだろうねえ」
低く罵られながら、肉でできた裂け目の中に指が入り込む。前後に撫でられると、くちゃくちゃと淫らな音が響いた。快楽に息苦しいレジーナは、言い返すこともできずにいた。ただ、切なく喘ぐだけだ。
「う……ん……あうっ」
彼女の腰は意思とは無関係に、僅かにくねるように動く。秘唇に入り込んだ指から逃れるように腰を引いたかと思うと、逆に刺激をさらに欲しがるように、腰を押しつけようとする。自分の体を制御するどころか、どうしたいのかもレジーナにはもう分からなかった。
官能に色づいた副伯夫人を嘲笑い、焦らすように、男の無骨な指は彼女の体の中には入らず、陰裂をゆっくりと撫でる。膣からあふれ出した愛液が葡萄酒と共に彼の指に絡み、秘唇の中で湿った音を立て続けた。自分の体の最も大事な部分から聞こえてくる、その淫靡な響きは、レジーナの耳に届いてさらに彼女の芯を熱した。
やがてグレンは肩を抱えてレジーナの体を起こさせると、ぐるりと彼女の体を後ろ向きにした。既にレジーナはされるがままだ。
後ろから抱えられるように、再び仰向けに体を倒される。頭の上にグレンの顔があった。彼は顔を歪ませる。レジーナの頭の先で衣擦れの音がした。
「レジーナ」
軽く体を引っ張られ、今までテーブルに乗ってた頭ががくりと下に落ちた。彼女の蜂蜜色の髪ものたうつように揺れて、金色の糸のように下へ垂れ下がる。
レジーナは目を見開いた。彼女の目の前には、既に赤く染まって屹立した陰茎がある。グレンは先ほどズボンを脱いでずり下ろしていたのだ。反転した視界に映る、反り返った硬い器官と、そこから下がる黒ずんだ陰嚢は、不気味で醜悪だった。
「いい子だから、ちゃんと咥えろ」
唇に男性器が押し付けられる。一瞬嫌悪が逆立ったが、子供を宥めるようなグレンの声を聞くと、以前と同じように、従わずにはいられなくなった。
どうしてだろう。諦めなのか、別の理由なのか、こんな時の彼にはほとんど逆らえたためしがない。
苦く、塩辛い皮膚が唇を滑って口の中に入り込む。息が詰まり、レジーナは再び喘いだ。
視界が翳る。
グレンも体を屈め、テーブルの上に横たわる女の股間に顔を寄せた。
先ほどまで行儀よく食事を楽しんでいたテーブルで、女主人であるレジーナが、はしたなく両脚を大きく広げ、酒にまみれた秘所をむきだしにしている。グレンは背徳的な満足を覚えた。レジーナの口に押し込めた一物が、さらにいきり立つ。
レジーナは葡萄酒で湿った陰毛に、グレンの手が触れるのを感じた。それをかき分けるようにして、裂け目の端の陰核を探られる。
唇にさらに強く男根が押し込まれたと同時に、肉の蕾に柔らかい舌が触れた。
「んんっ」
痛みに似た強い刺激を覚え、レジーナは一瞬腰を浮かせた。
彼女のそこが刺激に弱いことを知っているグレンは、零れた葡萄酒を味わう程度に陰核を軽く舐めながら、指先を裂け目にそって動かし、ぬめった液体にまみれたレジーナの入り口を探った。ぬれそぼったそこに、今度は一気に中指を押し込める。
「んんんんっ!」
グレンの股間で、くぐもった喘ぎが聞こえる。嗜虐心を刺激され、彼はさらに腰をレジーナの顔に押しつけた。
彼が指を女の中で動かすと、葡萄酒と混じった愛液が、ぐちゅぐちゅと破廉恥な音を盛大にたてる。聞こえているのかいないのか、レジーナは微かに腰を持ち上げながら、くぐもった呻きを上げ続けた。
「こんなことされても、ぐちゃぐちゃに濡らしてるのか。普段は男嫌いを気取ってるくせに、どうしようもない女だな」
「うっ……んんんっ、ん」
低く吐き捨てると、レジーナは再び小さく呻いた。彼の陰茎がつるりと舌で撫でられる。
抗議のつもりだったのだろうか。しかしグレンがさらに深く指先で彼女の内部を探り始めると、レジーナの呻きは徐々に甲高い鳴き声に変っていく。
レジーナの唇に侵入した彼の一物は、時折ぴくりと動き、硬さを増してくる。
もっと硬くしてみたい。
そんな衝動が沸いたが、自分の脚の間から上ってくる強烈な刺激で、彼女はそれどころではなかった。グレンの腰が僅かに動き、性器をレジーナの口の中に押し込めてくる。それに歯を立てないようにすることが精一杯だ。彼が腰を動かすたび、レジーナの顔と顎に陰毛が微かに触れ、額に揺れる陰嚢がぶつかる。
こんな屈辱ない。そしてこんな倒錯は経験したことが無かった。
固く目を閉じていたレジーナは、時々薄く瞼を開き、すぐ目の前で揺れ動く陰嚢を見て、自分に施されている惨めで淫猥な仕打ちを味わった。体の芯が熱く膨れていく。
やがてグレンは身を起こし、レジーナの口からも陰茎を引き抜いた。すっかり弛緩してテーブルに横たわる彼女の肩をがっしりと掴み、抱きかかえるようにして、テーブルから下ろす。
「立ちっぱなしで疲れた」
呟くと、彼はレジーナを後ろから抱えたまま、そばにあった椅子に腰を下ろした。レジーナの尻を軽く持ち上げて囁く。
「欲しいだろ? 上から座れ」
レジーナの濡れそぼった秘唇に、グレンの限界まで昂った器官が触れる。彼は挑発するように、それを軽く動かして、レジーナの襞の中で滑らせた。
もう何も考えられない。たったひとつのことを除いて。
矜持も道徳も意地も忘れ、レジーナは尻を突き出して、自らグレンの男性器を探った。縛られたままの両手が、グレンの体に突き当たる。彼女は無意識に指先で、その服に覆われた硬い腹筋を撫でた。
「んっ……」
微かな呻きと共に、やっと探り当てたものに、自分の膣を押し付けて、腰を落とす。
脚を大きく開き、膝を割って腰を屈める女の仕草は、グレンには滑稽で、淫靡で、愛らしく映った。
「うっ……あ……ああああっ!」
悲鳴のような叫びが、レジーナの口をついてでる。
軍の入城当時は、毎夜のように肌を合わせていた男と繋がるのは、ほぼひと月ぶりだった。体を引き裂き、こじあけるようにして、彼自身が入ってくる。その熱さ、圧倒的な頑丈さが与える重い官能は、レジーナがグレンに対して抱えているわだかまり全てを、跡形もなく押し流した。
グレンは膝の上に抱えたレジーナを、座ったまま突き上げた。レジーナの体が波打ち、視界が揺れる。尻が弾み、下へと落ちるたびに、男の肌と陰毛の感触を覚えた。
「うあっ! あっ! ああああっ!」
断続的に深い叫びを上げながら、レジーナは上りつめていく。体の中心を、背後の男のものが埋め尽くして満たし、ぬめって熱くなった膣壁を往復している。
激しく上下に体が揺れ、もはや平衡感覚すら危ういというのに、背後から揺れる乳房を握り締める掌の感触はよく分かる。体中が熱く燃え上がっているレジーナは、乳首を擦られる僅かな刺激にも、悲鳴をあげるほど快楽を覚えた。
汗ばんだ肌に、長い髪が幾束か張りつく。そうでない髪は、彼女の体に合わせて弾み、汗と体臭を散らした。揺れるふたりの重みを支えた椅子が、ぎしぎしと軋んだ。
「立って。このままじゃ、椅子がぶっ壊れる」
一度動きを止めたグレンは、レジーナの胴を抱えるようにして、下肢を繋げたまま、椅子から立ち上がる。
なすがまま、立ち上がったレジーナの背中で物音がすると、手首に巻きついていた皮のベルトが外れた。その解放感に、恍惚となる。
しかし動くこともできずにいるうち、レジーナは再び上体をテーブルにうつ伏せられた。突き出された小振りの尻の奥に、緩く繋がったままの肉茎が、もう一度深く押し込まれる。
「あうううっ……!」
体をのけぞらせ、喉の奥からあられもない声が飛び出す。
「いいなあ、レジーナ。気持ちよさそうだな」
うつ伏せに屈服させたレジーナを貫く男の声も、情欲に上擦っている。普段は聞けないその響きは、彼女の体をさらに熱くさせた。
「もっと喚けよ。隣で立ち聞きしてる小僧にも、どんだけ気持ちいいか聞かせてやれ」
グレンはさらに腰の動きを早めた。もはや声を抑えることもかなわず、突きこんでくるその律動に合わせ、彼女は甲高く叫ぶ。
「ああっ! あーっ! あっ、あっ、あぅ、あ……!」
突き入れられるたび、レジーナの腰がテーブルの縁にぶつかる。腰骨が僅かに痛んだ。しかしその動きが止まることは、彼女は決して望まなかった。豊かに垂れた乳房とその先端が、食卓の上でこすれる。その刺激すら甘美だった。
「レジーナ」
やがてグレンは深く息を吐き、レジーナの名を囁くと、うつ伏せた彼女の体を上から抱いた。尻にひときわ強く、腰が押し付けられる。体の中で、彼の熱い劣情が弾けた。
少しの間、呼吸を整えると、グレンはすぐに体を離した。熱い重みが背中から消え失せる。体内に入り込んでいたものが抜け、脚の間からぬるい液体が流れ出すのが分かる。
レジーナは服の裾を直しながら、振り返って体を起こした。
グレンは力を失い始めている下半身を拭っている。何かと思えば、はぎ取ったレジーナの下着を使っているではないか。
呆れたものの、咎める気力も無かった。どうせ葡萄酒にまみれてしまったのだ。
レジーナが鳩尾まで引き下ろされた服を直そうとしていると、近寄ったグレンに押し留められる。
「待て待て。ちゃんと拭いてやるから。蜂蜜でべとつくだろ」
彼はテーブルから、先ほど給仕にもらった、湿らせた布を取り上げると、それでレジーナの顔を無造作に拭う。濡れた布は、ほてった顔にひんやりと気持ち良かった。
「いいわよ、自分でやるから」
レジーナは、むき出したままの胸まで拭おうとするグレンから、布を取り上げようとした。
「こんな時に遠慮すんな」
「遠慮じゃない。いいから、あんたもズボンの前ぐらい閉めなさいよ」
「説教くせーなあ」
ぼやきながらも、グレンは布をレジーナに手渡し、下着の紐を結んで、ズボンを引き上げた。
その間に、レジーナは彼に背を向け、手早く肌に付いた蜂蜜と唾液を拭って、元通りに服を直した。
「じゃあ、部屋行くか」
胸元を留める紐を結んでいると、グレンに手を掴まれる。
鼓動が甘く弾んだ。体の中に、再び熱いものが息づく。それを押し込めるように、レジーナは彼の手を振り払った。
「なにが、じゃあなのよ。用が済んだら、とっとと寝なさいよ」
「用は済んでねえよ。お前、今日まで俺に四回負けてるんだぞ。あと三発やらせろ」
振り払った手をもう一度つかまれる。今度はがっちりと握り込まれた。
あたしに飽きたって言ったじゃない。
褐色の瞳を見つめ返しながら、レジーナはしかしその言葉を口にはしなかった。今言うべきなのは、そんな言葉ではない。
「お断りよ」
睨み上げながら吐き捨てると、男は冷めた嘲笑を浮かべた。
「本当に懲りないな。断れる立場じゃねえって、何回言わせんだ。また素っ裸で、寝室まで配達されたいかよ。それとも兵舎に連れて行かれたいか? 奴らの目の前でヤッてやろうか」
グレンの眼光は、ただ冷たい。本気で言っているのかどうか分からなかったが、それをためらう理由が彼にはあまり無いことに思い至る。
「……分かった」
屈辱をこらえて呟くと、表情を緩めたグレンは馴れ馴れしくレジーナの肩に手をかけ、食堂の出口へと導いた。
飲み物・食べ物は大切にしましょう。
決してマネしないでください。(するか!)
誤字脱字は、近々、直します。
次回の更新は、一週空く予定です。
作者ブログ『椰子の実ライブラリ』
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