警告
この作品は<R-18>です。
18歳未満の方は
移動してください。
女性を対象にしたソフトなポルノ話です。(BLはありません)
1.停戦会談
扉を開けて部屋に入ると、樫のテーブルに行儀悪く足を投げ出していた男は姿勢を正して、無造作に立ち上がった。
「奥方様にわざわざお越しいただくとは、お手間をかけますな」
男は腰に剣を下げたまま、慇懃無礼に形ばかりの礼を取った。
「他に人がいませんもので」レジーナは素っ気なくその礼を遮る。「お話通り、人払いをしていただけますか?」
「もちろんですとも」
小憎らしいことに笑顔で頷くと、男は手を振って、完全武装したままの部下たちに退出するように命じた。
「しかし、グレン様……」
何人かはためらったが、男は「いいから行け」と威圧的な声で促す。
レジーナも振り返り、彼女に従う侍女や侍従たちに、彼らを別室に連れてもてなすようにと伝えた。複雑な表情を浮かべながら、彼らはそれでも了承した。
双方の部下が退出し、私的な応接間兼家族用の小食堂には、女城主と男だけが残る。
侵略者の司令官が昔の知り合いとは。
「久しぶりだな」
部下が消えると、グレンは相好を崩した。レジーナは微笑む気になどなれない。
「そうね」
「風の噂でつまんねー男と結婚したって聞いてたけど、あのじゃじゃ馬が貴族の奥様になってるとはね。世の中分かんないもんだねえ」
世間話をする気などなかったが、つい皮肉を返したくなる。
「まったくね。あんたみたいな男が、大公軍の司令官に納まってるんだものね」
グレンは昔、レジーナが冒険者として王都で稼いでいた頃の知り合いだ。同じ冒険者の一人だった。
彼女は他の大勢の冒険者と同じく、常にパーティーを組んで行動していたが、グレンは一匹狼だった。仕事の為に一緒に組んだこともあるし、別の仕事では邪魔をされたこともある。
一人で行動していただけあって、腕は立つし、見かけより頭もきれる。苛烈で狡猾な性格もあって、敵に回したくはないが、味方にいても安心できない、あまり関わりたくない人間の一人だった。
だが数年するうちに彼は王都に顔を出さなくなり、レジーナたちのパーティーもこちらの辺境に拠点を移した。
やがて彼女はここの若い城主に見初められ、才気に溢れた彼を愛し、二年前に結婚した。
戦略的価値もない、山間の城。
領地を治めることだけを考えていればいい、忙しいが平和な日々だった。異教の国への遠征に夫が駆り出されるまでは。
夫は強い。傭兵として体を張って稼いできたレジーナよりも、剣の腕なら上だ。だが彼に同行したこの領地の軍はお世辞にも精鋭とは言えないし、そもそもどんなに腕が立っても、何が起こるのか分からないのが戦争だ。
妻であるレジーナにできることは、無事を祈ることと、留守を預かり、領民の面倒を見ることだけだった。
まさかその間に、大公の軍が進軍してくるとは、誰も考えはしなかった。
少ない守備隊の軍人は残らず遠征に参加していて、城に残るのは老人と子供、女がほとんどだった。戦える者もいないではないが、相手はこの辺境を攻める為に、二千の軍隊を動かしてきた。
そしてかつての知り合いの名を、敵軍の司令官として聞いた時、彼女は開城──実質の降伏を決めた。
「お互いうまく立ち回ってきた結果だろ。……何か飲み物出ないのか?」
「話の後にして」
今は少しでも話を有利に運ばなければならない。早々に降伏したのは、被害を最小限にして交渉を有利に進める為だ。
グレンは苦笑いを浮かべ、再び椅子に腰を下ろした。
「分かった。気が強いな、相変わらず」
相変わらず? 知った風な口を。
思わず眉をしかめる。彼女とグレンは知り合い以上でも以下でもない。友人とも呼べないよそよそしい関係だ。ましてや男女の関係であったことはない。
冒険者仲間の内でも、レジーナの美しさは目を引いた。剣士として鍛えた彼女は決して華奢ではなかったが、贅肉のない均整のとれた肢体と、淡い金髪に縁取られた整った顔立ちに惹かれる男たちは後を絶たなかった。
グレンに言い寄られたことも度々あったが、彼女はその都度あしらってきた。
若かった当時の彼女にしてみれば、腕利きの剣士であり、荒削りだがそれなりに魅力的な顔立ちのグレンに、興味が無いわけではなかった。
しかし彼はあまりにも狡猾で信用ならなかった。雇い主や仲間を出し抜くことはしばしばあったし、敵には怪物と言わず人間と言わず、容赦はしなかった。彼の残虐とも言える苛烈な戦いぶりを何度か目にしたが、味方にいてもレジーナは震えが止まらなかったものだ。
女癖も悪く、レジーナの周りにも彼に泣かされた女は片手の指では数えられないほどいた。
だが、数年を経てこのような状況に陥り、グレンが自分の名前を覚えていたことを幸いと思うことが来るなど、当時の彼女には想像もつかなかった。
公国軍の使いが城を訪れ、開城を求められた際、受け取った書状の署名に司令官としてグレンの名前を見つけた。まさかかつて同業者だったグレンだとは思わなかったが、使者はレジーナの反応を見越したように、彼の主がレジーナと旧知の仲であるはずだと告げた。
血の気が引いた。まともに戦った場合の損害と、敗北した自分たちの末路が容易に想像できた。
臣下たちとも話し合った末、レジーナは結局降伏を決めた。
停戦の交渉を他人を交えずに二人だけでしたいと告げると、大公の司令官は旧友ですらない、かつての知り合いの要望をすんなり受け入れた。
「それで、そっちの望みは何? 何をしに来たの?」
レジーナは椅子に掛けず、グレンを見下ろす。少しでも威厳を保ちたかったが、男は余裕たっぷりだった。
「まあ、まず副伯夫人の話から聞こうじゃないの。降伏の条件は?」
「軍を退いて公国に帰って。二度とここに来ないで」
「わっはっは」
グレンは声をあげて笑った。いっそ無邪気とも言えるほどの豪快な笑いだった。
「そりゃそうだろうなあ。それがこの国にとっては一番いいことだもんな。だが、俺たちが同意するはずないだろう? 言うだけ時間のムダだ。他に頼みごとがあるだろう」
「そうね、時間の無駄だったわ。……領内で略奪をしないで。どんな用事か知らないけど、領民や城内の人間を傷つけたりしないで。お金やものが欲しいなら、彼らから私が徴収する」
「ふ~ん。ま、いいでしょ」
また皮肉を返されるかと思えば、やけにあっさりと彼は頷いた。
「……本当に? 約束を守る気あるの?」
「あるよ。俺らだって、無傷でここを手に入れてるんだ。連中もそう荒ぶってるワケじゃない」
どうにも信用ならない気もしたが、一応納得して彼女も頷いた。
「言ったからには、部下への指導を徹底してよ」
「分かったって。一応大公国の正規軍だぜ。傭兵じゃねーんだ。司令官の言うことは聞く」
「あんたが司令官なら、そうでしょうね」
レジーナは白けた声で答えた。それだけグレンが部下から尊敬されているということではなく、彼が単に恐ろしいから、兵士たちも黙って従っているのだろうと思った。彼女は腕組みをして続けた。
「……それで、そっちの条件は?」
「俺が連れている軍をしばらく駐留させる」
女城主が敵司令官に告げたのは頼みごとだ。だが彼が告げたのは決定事項だった。立場の違いを改めて感じ、レジーナは屈辱に僅かに唇を震わせる。
「それだけ? しばらくってどのくらい?」
「分かんね。まあ一年かそこらか。峠を抜ける間道を作るのに、この城が必要なんだ」
峠の向こうは別の伯爵領だ。そこの伯爵も確か遠征に出かけているはずだ。
本当の目的はそちらか。二千の軍団の多くは工兵だったのだ。
(私たちの領地は通り道に過ぎないわけね……)
だとしたら何て運が悪かったのだろう。嘆きたいような気もしたが、しかし逆に言えばうまく立ち回れば、被害を受けることは少ないかもしれない。
軍隊は駐留させるには金がかかる。兵たちの糧食をこの小さな領地で賄えるだろうか。
「それさえできれば、ここには被害を与えるつもりはないのね?」
「無い。こんな小さな領地を取り上げても仕方ない」
レジーナは自嘲した。彼の言うとおりだ。爵位を取り上げられたりしなくても、大公の言いなりになるしかないのだ。
自由だった冒険者の頃には誇りや自由の為なら何でもできた。侮辱されれば、相手に唾を吐きかけながら死んでいけると思っていた。怖いものなどなかった。
だが、幸福と引き換えに、守るものを背負ってしまった今は、そうはできない。
「……分かった。今遠征中の兵舎を使って」
「あの兵舎では入りきらないだろう。士官連中は城内に滞在させる」
「いいわ、それで。部屋は整えさせるから。じゃ、話は終わりね? 今葡萄酒でも持ってこさせる」
レジーナはさっさと話を切り上げ、部屋を出ようとした。
「待てよ」
嫌な予感はした。だが無視するわけにもいかない。彼女は再びグレンに顔を向けた。
「何?」
つっけんどんに尋ねると、グレンは椅子から立ち上がった。
「城内の召使いどもと領民には話を通すんだろうな」
「もちろんよ。今後もお互い友好的にありたいから、親睦を深める為に今夜は夕食会を開かせる準備もしてます。そこで城内の人間には状況を説明して、あんたたちを紹介するわよ」
副伯夫人の言葉を聞き、グレンは軽い感嘆を覚えた。即時降伏したことといい、冷静で頭のいい女だ。
若い頃のレジーナの記憶は、正直なところ薄い。田舎城主の妻に納まるような女だ。ちょっとした美貌が唯一の取り柄であるじゃじゃ馬だと思ったが、こんなところに埋もれさせておくのは勿体無い。
「なるほどね。もの分かりがよくて助かる」
グレンは大股にレジーナに歩み寄った。彼女は後ずさって身構えたい衝動をこらえてその場に留まる。肩に馴れ馴れしく男の手がかけられる。
「お美しくて頭のいい奥方様のことだから、当然分かってるよな」
「……何の話?」
下劣な男。嫌悪感をこらえながらレジーナがとぼけると、グレンは一言もなく彼女の唇を自分の唇で覆った。
レジーナはわずかに身をよじって、グレンの胸を押し返したが、鍛えた体はびくともしなかった。図々しくも彼女の唇を割って、男の舌が侵入してくる。
「あ……」
レジーナは掠れた声をあげた。
下唇に軽く歯を立てられ、舌で上あごの内側や歯茎を探られる。
嫌悪感に鳥肌が立ったが、彼女は息を弾ませた。男の耳に甘く響くように。
快感を覚えていると、男に信じ込ませなくてはならない。吐き気すらしそうだったが、レジーナは喘ぎに似た吐息を漏らしながら、グレンの舌に自分の舌をからめ、吸った。
薄目を開けてグレンの顔を覗き見ると、彼は目を閉じていた。
「はぁ……」
彼女は興奮しているような息を吐き続けながら、静かにそっと、右手を自分の腰へ滑らせた。左手を男の背中に回し、服をつかむ。
自分の動きを悟られない為の演技だったが、気を張っていないとその演技が作り出す雰囲気に飲み込まれそうだった。
二人だけでの会談の条件は、レジーナが武器と鎧をつけないことだった。彼女はドレス姿でこの場にやってきた。
襞をたっぷり取った裾の長い衣装は、脚に武器を隠すのに好都合だった。
長い裾をめくりあげて武器を取り出している時間は無い。相手も歴戦の男だ。彼女は幾重にも布を重ねたような襞の一つに、外から見えないように切れ込みを入れておいた。
「ん……ふぅ」
衣擦れの音を聞かせまいと細心の注意を払いながら、それを隠すようにわざと声をあげ、舌を動かして唾液が交じり合う音を立てる。先ほどまで感じていた嫌悪感など、この緊張の前にはどこかへ消えてしまった。
しくじれば、自分はもちろん、城内の人間も領民もただではすまない。
殺すなら、一撃で、確実に。
司令官さえ仕留めれば、あとの連中は何とかなるかもしれない。今、広間で士官たちをもてなしている女官たちも、レジーナが訓練を施した女戦士たちだ。彼女の号令ひとつで、酒に酔う士官たちを始末できるだろう。隊長を失った兵たちは烏合の衆だ。
正面切って戦うほどの力は、今のこの領地には無い。だが降伏したとは言っても、レジーナたちはまだ全てを諦めたわけではない。
再びグレンの顔を盗み見る。男も彼女とのくちづけに、目を閉じたまま酔いしれているようだった。
レジーナは服をかき分け、切れ込みから手を差し入れて、太ももの外側にくくりつけた、鋭く研いだ短剣の柄に触れた。静かに握る。
一動作で抜き放ち、やはり鎧をつけていないグレンの胸を突く。何度も頭の中で繰り返した。
だが彼女が短剣に力を込める寸前、右手をすさまじい力で掴まれた。
驚いて目を開いて顔を離すと、グレンも既に目を開けてレジーナを見ていた。口元に薄笑いを浮かべている。
「ばれないと思った? 田舎暮らしで鈍くなったんじゃないのか?」
右手にさらに力が込められる。指がつぶれそうだ。レジーナはうめいた。
グレンは短剣を握ったままの彼女の手を持ち上げ、右手で短剣をねじりとる。
唯一の武器は彼の手に渡ってしまった。グレンは取り上げた短剣をばか丁寧に、テーブルに静かに置いた。
「妙なことは考えない方がいい。せっかくいい条件で降伏したんだからな。俺を殺したところで、公国から代わりの人間がやってくるだけだ。そいつにどんな目に合わされるかは分からんぞ」
悔しいが、彼の言う通りだ。レジーナは諦めのため息を漏らした。
先ほどの条件を彼が本当に呑んでくれるのなら、グレンが司令官でいるのも、そう悪いことではない。
だがこの好色な男が、レジーナを始め城内の女官や城下の娘たちを、紳士的に丁重に扱うとは思えない。夫以外の人間に触れられるのは嫌だった。しかし自身の事情によって、領民たちを苦しめるわけにはいかないことも分かっていた。
「自分の立場が分かったか? お前は俺に気を使って、もてなさなきゃいけないんだよ」
彼女にとっては屈辱的な台詞を吐き、彼はレジーナを固く抱き締めて再び口づけた。
先ほどは肩に手が沿えられていただけだったが、今度は右手で強く抱き寄せられている。
再び無遠慮に舌が侵入してくる。軟体動物を口に押し込まれたような感触に、レジーナは怖気すら感じた。
彼女の肩を拘束しているのは片手一本だというのに、レジーナが身じろぎしても、微動だにしない。がっちりとグレンに体を押し付けられ、彼の胸板の厚さを感じた。
グレンの方も強く抱き寄せたレジーナの身体、自分の腹に押し付けられている彼女の乳房の柔らかさを感じた。昔知っていた少女の頃から、彼女は骨ばった少年のような骨格をしていたが、女戦士にしては珍しく胸元はふくよかで、愛らしかった。
今も変わっていない。どころか、蕾だった花が艶やかに咲き誇るように美しくなっていた。最後に会ったのは、まだレジーナが二十歳になる前だったろう。それから数年を経て完全に成熟した彼女は正しく女盛りと呼べた。ごつごつしていた肩や腰周りも丸みを帯び、鎖骨のあたりには見苦しくない脂肪が薄く現れ、日焼けしているばかりだった肌は、しっとりと陶器のような艶やかさを持っていた。
それに先ほどの自分の隙を突く為の口づけ。結婚して、人妻として男を知り、悦びを知った女の熟達した手管だ。
グレンは熱っぽい息を吐きながら、レジーナの口内を荒らした。彼女はわずかに身体をよじるが、先ほどの脅しが効いたのか、目立った抵抗はしなかった。
右手で細い腰を抱きながら、左手で髪を撫でる。そのまま掌を長い髪の中へもぐらせて小さな頭を抱えるように撫でさすると、レジーナの身体はびくりと揺れた。
グレンの乾いた手は首筋を辿り、鎖骨をなぞる。荒々しい舌の動きとは反対に、羽が触れるような優しい動きに背筋がぞくりとした。くすぐったいような感触がか細く走り抜ける。
「やめて……」
顔を離し、声をあげようとしたが、再び唇で塞がれた。
首筋を撫でていた手が胸に下りて、彼女の豊かな乳房をそっと押さえた。
いくらなんでも停戦会談の場で無礼だ。レジーナは本気で力を込め、グレンの腕を振り解こうとしたが、予想以上に彼の力は強かった。結婚してからは以前ほどではないとはいえ、レジーナも相当鍛えたのだ。並みの男などより腕力はある。しかし最前線で戦い続け、常に訓練を積んできた職業軍人には敵わなかった。
レジーナは自由になる両肘から下を振ってグレンの身体を叩いて抗議の意を示したが、彼にとっては猫に甘噛みされたようなものだった。
グレンは上質の綿で織られたドレスの上から、包むように乳房をつかむ。親指で浮き出た乳首をそっと擦ると、そこが固くなるのを感じた。
「やめてよ」
舌を絡ませられながら、何とかレジーナは声を絞り出したが、グレンは答えもせず、彼女の舌を吸い上げた。唇が唾液にまみれてしまう。
ドレスの上から固くなってしまった乳首を指先でつまみあげられ、そのまま弄ばれる。くすぐったいでは済まない、さらに甘美な衝動がそこから全身に広がろうとしている。
いやだ。悔しい。こんな場で、こんな男に。
必死で自制するが、それが却って感覚を研ぎ澄ませてしまうようだった。
男の手はそこを離れ、レジーナの右の腰を撫で回した。その手の動きから快感を探り当てようとする自分がいる。
だめだ。体を凍らせなければ。しかし既に火が灯されたように、もう抑制が効かない。
グレンの手は先ほど彼女が、彼を不意打ちする為に、服に空けた切れ込みを探しあてると、そこから服の内側に入り込み、彼女の素肌に直接触れた。この男は覚えていたのだ。レジーナは血の気が引く。
「やめて。やめなさいよ……」
唇を振りほどき、礼儀も忘れて自由になる右足で、グレンの足を蹴りつけるが、これも全く効かない。どころか、服の中で右の太ももを捕まれてしまった。
「おとなしくしろよ」
「なんでよ。冗談じゃないわよ」
「さっき言ったろ。自分の立場を分かっとけって。俺の部下どもに、お前の侍女たちをどう扱わせたいんだ?」
「……最低」
低く罵るのが精一杯だった。この男なら何のためらいもなく、部下たちに城を略奪し、女官たちを陵辱するように命令するだろう。
動きを止めたレジーナを見て、観念したと思ったのか、グレンは右手の力を緩め、繰り返し彼女に口づけた。
服の下に差し入れた左手で脚を撫でる。鍛えた筋肉にほどよく脂肪が乗った、素晴らしい手触りだ。女の肌に勝る手触りはない、どんな上質な陶器も絹も決してこの感触には勝てないだろう。唇を合わせながら自分を睨み返す美しい女城主を見つめ、グレンはそう思った。
手をそのまま太ももの裏に滑らせる。そこから下は手触りのいい絹の靴下に覆われていた。
下からなで上げると、彼女は微かに背を反らせた。脚に力がこもるのが分かる。そのまま下着に包まれた尻まで左手を動かす。女の尻独特の、重たい肉の感触が少ない、小ぶりの尻だった。力を込めると、レジーナの体がさらにグレンに寄る。豊かな乳房が二人の体に挟まれて潰れた。
レジーナの細い眉が寄ったが、彼女は苦痛の声すら漏らさなかった。
舌をさらに差し込み、上あごの裏を舐める。レジーナの表情はさらに険しくなった。グレンもまた口づけたまま目を見開き、彼女を観察していた。
舌を下あごに移すと、唾液がレジーナの口の中に流れ込んだ。
「うっ」
快楽か嫌悪か、レジーナは顔をそむけ、唇を外す。グレンはしかし執拗に彼女に顔を寄せた。
昂った感情の為に紅潮した彼女の唇は赤い。二人の唾液で濡れている。それは細い顎を伝い、むき出した鎖骨に滴っていた。
乱れた扇情的な姿だというのに、瞳は力を失っていない。グレンにとっては美しい肉食獣を相手にしているようで魅力的だった。
「こっち向け」
逃れようとするレジーナに低く告げる。彼女の瞳に怒気が宿った。
だが一瞬後に、先ほどのグレンの脅しを思い出したのか、表面上は彼の命令に従った。
そう、命令だ。再びレジーナの唇をこじ開けながら、グレンは思う。
この辺境の城は自分たちが占領した。降伏したレジーナたちは、彼らに従わなければならない。この気の強い女にはさぞ屈辱的だろう。
グレンは彼女の臀部を撫でていた手をさらに動かした。二つの肉の間に下着の上から手を触れる。
されるがままになっていたレジーナが、いきなり肘から下の腕を振り回して、彼のわき腹に叩きつけた。グレンはその女にしてはやや太い、鍛えられた腕を、彼女の体を抱え込んだ右手でそのまま掴む。
「……なにすんの」
顔をやっと離して抗議の声をあげたレジーナを全く無視し、服の中の左手でさらに彼女の中心を撫でさすった。下着の上からでも秘唇の感触が分かる。指を押し込むように強く触れると、またレジーナが身じろぎした。指先には布が皮膚とこすれる感触はなく、滑らかに動いた。
レジーナは再び右腕に力を込めた。だが今度はしっかりと腕を掴まれて動けない。
先ほどからグレンにしつこく舌を差し入れられ、唇を噛まれ、吸われているので、息が苦しい。それは相手も同じだろう。息が荒かった。まるで触れ合う互いの体に興奮しているようだ。
違う。
必死で言い聞かせないと、じわじわと沸いてくる火照りに呑み込まれそうだった。
グレンの指はさらに彼女の固く閉じた両脚の隙間に無礼に滑り込み、秘唇を前後に撫でている。頬が紅潮するのは屈辱かそうでないのか、分からなくなってきていた。
グレンが成長したレジーナの美しさに感嘆したように、レジーナもまたグレンの年月を重ねた変貌に魅力を感じていた。
若い頃の粗暴さは表情によって巧みに隠されている。そうしていると、元々甘い顔立ちはある種の気品すら漂わせた。長身だった体躯は、さらに鍛えられて厚みを増した。体が密着すると、服の上からでは分からない筋肉の弾力を感じた。実際、歴戦の女戦士でもあるレジーナを軽々と封じ込めている。
触れ合う唇から艶かしいものが流れ込んでくる気がして、レジーナは目を閉じた。
違う、考えてはいけないと思う方へと、意識の奥が引きずられていく。
男の指が下着を押し退けて、中に入ってきた。ぬるりと滑る粘液の感触。自分より、グレンの方が分かっているに違いない。愛する男から長く愛撫を受けたわけではない。目の前の男とただ口づけを交わしただけなのに。そう思うと羞恥のあまりこの場から消えてしまいたかった。
無骨な長い指がそのままくねりながらレジーナの体内に侵入してくる。ぬめった愛液がそれを待ちかねているようだ。彼女の秘部は全く抵抗せずにグレンの指を受け入れた。
「……くっ」
歯を食いしばり、声をこらえる。下半身から、体の芯から熱が立ち上ってくる。甘美な疼きに瞳に涙が浮かぶ。彼女はそれをせめて苦痛の為だと、男に思わせたかった。
グレンの唇はレジーナのそれから離れ、頬へ、耳へと触れられる。まるで友人同士が交わすような、罪の無いくちづけのように、軽く。礼儀正しく。
けれどそれとは逆に左手はレジーナの中を無遠慮に探っていた。自分の体の中に、自分でないものがいる。彼女が、その屈辱とも恐怖とも言える行為を許したのは夫だけだった。
信頼しているから夫は許せる。身を任せられるのだ。そして快楽を感じることができる。
レジーナはそう思っていた。
では何故、信頼と対極にいるような、狡猾で油断がならない、しかも敵方である男に触れられ、そこから快楽が生まれてしまうのだろう。
「……は」
声をこらえても息が乱れる。グレンは一言も喋らない。相変わらず体を締め付けられ、肘から上は全く動かせない。指先、爪先に力がこもる。知らずドレスのひだをきつく握り締めていた。
体の中で指がねじれるようにゆっくりと蠢く。時には奥へと伸びたかと思うと、次は入り口に近い部分を撫でる。単純な前後運動ではなく、常に何かを探しているように変則的に動き続けた。
(あの人はこんなことしたことがない……)
脳裏に浮かんだ考えに、次の瞬間レジーナは絶望的なまでに恥じ入った。よりによってグレンと夫を比べるなんて。
比べてはいけない。愛と信頼に満ちた愛撫と、欲望のままの猥褻な行為は次元が違うものだ。
しかし自分に言い聞かせるほど、夫の顔、声、睦み合いの姿が浮かび、離れない。羞恥と罪悪感によって、潤んでいた瞳から涙がこぼれた。耳を撫でていたグレンの唇が、その涙を掬った。
壊れ物に触れるような、優しい触れ方。しかしそこから漏れる息は荒かった。体の中をまさぐっている彼の指のように。
足が震える。もう耐えられない。何に耐えているのだろう。罪悪感か、快楽か、苦痛なのか。意識がぼやけ、熱を帯びて拡散した。
それでもレジーナは歯を食いしばり、ドレスを握り締め、声を漏らすのをこらえた。どちらも言葉を発さず、愉悦のため息も漏らさず、応接間には男と女の荒い息遣いだけが白々しく響いた。
突然グレンの指が体内から引き抜かれる。その一瞬に生まれた感情をレジーナは押し殺して封じ込めた。
グレンは彼女のドレスの中に忍ばせていた手をそこから抜き取った。つい目を向けたレジーナは、その骨ばった中指が自分の性器から溢れた液体に濡れているのを見て赤面した。愛液は指どころか掌にまで広がり、濡らしていた。
彼はその手をテーブルに伸ばした。そこには先ほどレジーナから取り上げた、彼の命を狙った短剣が置いてある。グレンはそれをつかんだ。
殺されるのか……。
レジーナはそう思っても、抵抗する気も無かった。これだけ辱めを与えられた挙句に殺されるなどと、普段の彼女であれば誇りが許さなかっただろう。だが今は頭に霞がかかり、指一本動かすのも億劫だった。
「動くなよ」
グレンは短剣を掴んだままの手を、再び切れ込みからドレスの下に差し入れた。
さすがにぞっとする。何をするつもりなのだろうか。どのように殺すつもりなのか。いずれにしても動けなかった。
腿に冷たい刃の感触を感じる。それはゆっくり彼女の肌を傷つけずに滑り、腰に引っかかっていた下着の紐を断ち切った。
からんと音を立てて、グレンの手から放り出された短剣が床に落ちた。
同時に締め付けられ続けていた男の右手の力が緩む。太ももを何かが滑り落ちた。拾わなければ。
しかし、緩慢なレジーナよりも素早くグレンはかがみこんで、ドレスの裾から彼女が身につけていた下着を拾い上げた。
彼の手に人肌よりも冷たく、ぬるぬるとした感触が伝わる。ドレスと同じく、高級な綿でできた下着はじっとりと濡れていた。
うまく行けばこの場でこの女城主を抱けると思ったが、なかなかしぶとい。部下を呼んで、女を押さえつけて陵辱することは簡単だが、苦痛に泣き叫ぶ女を抱いてもあまり愉快ではない。
テーブルに腰をもたせ掛けているレジーナの目は、まだ潤んでた。だが、その瞳は力を失っていない。誰が敵か、彼女はまだ忘れていないようだった。もう少し楽しめそうだ。
グレンはこれ見よがしに、彼女が穿いていた下着を自分の上着の懐にしまいこんだ。
「何考えてるのよ。返してよ」レジーナの顔にさらに血が昇った。「変態じゃないの、あんた?」
男は挑発されて怒るどころか、薄笑いを浮かべた。
「あ、ナニ? その変態に触られて喜んでたお前は何なんだよ?」
一言も言い返せなかった。握りこんだ拳に爪が食い込む。いつの間にこんなに伸ばしていたのだろう。冒険者だった頃は、怪我の元だからいつも短く切っていたのに。
油断していた。
自分も。夫も。安穏とした日々に飼いならされて、同じ日がずっと続くと思っていた。夫が戦場に出た時から、もうそれまでの日常は終わっていたのだ。何故分からなかったのだろう。
「さて、それじゃそろそろ夕食会に行きましょうかね、副伯夫人。せいぜい盛大に歓迎してくれや」
後悔にさいなまれるレジーナの肩に馴れ馴れしく手をかけ、グレンは告げた。
今回はさわりだけ(文字通り……)でした。
続きもちゃっちゃか書いていきたいです。
作者ブログ『椰子の実ライブラリ』
【小説の匣】