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102 私 〜麻衣side〜 
“あんな風に生きていけたら幸せかも。”千雨を見て私がいつも思ってた事だ。
自分を隠す事なく明るく元気に振舞う千雨がうらやましかった。
希望を持って望んだ大学生活。
でも、人見知りな私は新しい環境になかなか慣れないでいた。

「・・・。」

降り出した雨。
天気予報が外れ、窓の外はどしゃぶりだった。
不意に純平との出会いを思い出していた。
お母さんが再婚して転校する事になった私と由衣。
誰も知らない街に行くのが不安で仕方なかった。
そんな時だった。
純平と出会ったのが・・・。
初めて会ったのに気さくに話せた純平。
こういう人もいるなら、きっと転校しても大丈夫。
不安だった私の気持ちが楽になってた。
もしかすると一目惚れだったのかもしれない。
今考えるとおかしい。
その純平と兄妹になったんだから・・・。

「心ここにあらずって感じだね。」

「えっ?」

「あ、ごめん。びっくりさせちゃった。」

「そんなに間抜けな顔してたかな?」

「いや、そういう意味じゃなくて・・・。」

突然話しかけられたのは見た事ある顔だった。
同じクラスの日野ひのしゅう君。
話したのは初めてだ。
でも、こうして知らない人から話しかけられる事は珍しい事じゃなかった。
自慢じゃないけど、ナンパや誘いは大学に入ってからよくされていた。
どうせこの人も・・・。
人に対してずぐに疑心暗鬼になるのは私の悪いクセだ。

「雨に特別な思い入れがあるの?」

「そういう訳じゃないんだけどね。」

理由を聞く訳でもなく、予想してた誘いもない。
ただ一緒に窓の外の雨を眺めるだけ。
どうして話しかけてきたのか不思議だった。

「あ!麻衣ちゃん。サークル、何に入るか決めた?」

そんな私達の前にやってきたのは、しつこい誘いを繰り返すいつもの人達。
人懐っこいのは分かるけど、私には迷惑だった。
だから人に対して壁を作るのかな。

「あのー、この前も言ったけど。私、今の所・・・。」

「じゃあさ、気が向いたら俺達の所においでよ。」

「か、考えておくね。」

強引な誘いも苦手。
どう断っていいのか戸惑ってしまう。

「面倒くさいって顔してる。」

「えっ!?」

「ほら、やっぱり。」

確かに少しそう思っていたけど、それを見透かされたのがちょっと恥ずかしい。

「私、そんな顔してた?」

「うん。」

「そっか。あんまり人付き合いって得意な方じゃないから。」

苦笑いを浮かべると、分かっていたような口を聞く。

「何かそんな感じしてた。」

どこか親しみがある話し方に笑みが零れた。
話しやすいのは下心がないからだろう。
ちょっとだけ心を許せそうな人を見つけたような気がした。
それから時々日野君と話すようになった。





「ずいぶん読み込んでるんだね。」

とある一緒の講義の時の事だった。
持ってた表紙がボロボロになった1冊の専門書に目が向く。

「すげぇいい事書いてあるんだ。いい本だよ。」

渡された本を見ると色んなペンで線が引いてあるし、細々と書き足した文がたくさん。

「そうなんだ。偉いね。」

「偉いって訳じゃないけど。どうしても取っておきたい資格があるからね。」

「・・・。」

ただ何となく大学に入った私とは違っていた。

「資格・・・か。」

日野君は目的を持って大学に通っていた。
日野君だけじゃない。
純平も将来の目標を見据えて、その為の専門学校へと進んだ。
千雨もそうだ。
早く社会に出て働きたいという信念を持っていた。
何かになりたいなんて、私はいつから考えなくなったんだろう。

「私って目標も何もなく大学入ったのかも。」

「・・・?・・・確かに初めから目標あるのが理想だけど。」

「日野君みたいに目標ある人はいいよ。」

「俺だって最初からあったんじゃないって。だいたい目的なんて見つけりゃいいさ。」

「案外適当なんだね。」

「それを見つける為に勉強するって事でもあるし。違うかな?」

「・・・なるほどね。」

説得力のない言い方に聞こえたが、なぜか納得出来る。
特別難しい事を話してる訳でもないのに、日野君の話しは理にかなっていた。
何よりも、話してても違和感がないから自分を出して話す事が出来る。
本音をぶつけられるのが良かったんだ。
この人何なんだろう。

「前から聞きたかったんだけど、何で私に話しかけたの?」

突拍子のない質問をぶつけた。
もし不純な理由だったら友達付き合いも考えようと思っていた。

「・・・何となく。」

「なんだ。」

理由が特にないのにがっかりしてる。
特別な理由があったらよかったと思っていた自分がいたのも確かだ。
本当は期待していたのかもしれない。
呆気ない答えに拍子抜けしていた。

「あの・・・本当は・・・。」

すぐに話題を掘り返す日野君。

「泣きそうな顔してたから、気になって・・・。」

「えっ?」

「いや、雨見ながら・・・あの時・・・だから、つい・・・。」

そんな顔してたんだ。
自分では気づいていなかった。
純平を思い出して泣きそうになってた自分に・・・。
寂しさは思いの分だけ増していく。
割り切ったと思った気持ちが残ってる。
離れてみると微かだと思ったのが、本当は大きなものだったと気づかされた。
どうしようもない想いなのに・・・。

「好きな・・・奴の事考えてたとか?」

すぐに気づかれた。
何でこの人は分かるんだろう。
不思議だった。

「うん、そう。もう適わないんだけどね。」

「そっか。」

“もう適わない。”口に出して言うと楽になる。

「俺さ、高校の卒業式に振られたんだ。」

「そうなんだ。」

「雨見たら思い出して・・・そしたら同じように見てる紺野さんがいて・・・だから・・・。」

「同じ気持ちだったんだね。」

「・・・失恋って辛いよね。」

失恋・・・?
そうか。
私、失恋したんだ。

「うん・・・そうだね。」

「でもさ、後ろばっかり振り向いてないで、ちゃんと前向いて歩いた方がいいって。」

「・・・。」

「パーッと目の前が広がるかもしれないよ。」

だからこの人は前向きに生きてるんだ。
うらやましいと感じると共に、こんな風になりたいと思っていた。
後ろばかり気にしてた私の心が動き出したような気がしてる。

「・・・。」

ポケットの中から携帯を出す。
授業中にも関わらず、純平宛に長々と近況の報告のメールを打っていた。
純平は自分の様子を色々と送ってくれてた。
私は夢に向かって頑張ってる純平と今の自分の差が嫌で、適当に返事をするだけだった。

「もしかして・・・その好きだった人にメール?」

「うん。」

少しだけど気持ちの整理がついた気がする。
“ありがとう。”日野君に向かって言葉に出さず呟いた。

「何か言った?」

「何も言ってない。ねえ、終わったらご飯でも食べて帰ろうよ。」

「いいね。」

「じゃあ、決まり!」

そうだ。
前を向いて歩いて行こう。
きっと私にだって何か目標になる事が見つかるかもしれない。
窓の外は眩しいぐらいの陽射しが輝いていた。
未来に向けて麻衣にも新しい1歩と出会いを・・・の意味のこもったラストです。最後まで読んでいただきありがとうございました!
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